孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン北西辺境地域  イスラム過激勢力の集結・連帯

2008-08-02 16:35:01 | 国際情勢

(失われたアフガン・バーミヤンの大仏跡 “flickr”より By tracyhunter
http://www.flickr.com/photos/tracyhunter/1778632003/)

【「テロリストの聖域」】
01年にアフガニスタン・バーミヤンの石仏がタリバンによって破壊され世界に衝撃を与えましたが、仏像発祥の地として知られるパキスタン・ガンダーラ地方最大の石仏(仏像本体の高さ約7メートル、3~5世紀)の顔面が昨年、タリバンに近い地元の武装組織に爆破されていたことが明らかになりました。
バーミヤンの石仏爆破から7年。繰り返された石仏爆破は、急速に勢力を回復するタリバンの影響力が、パキスタン側にも浸透していることを物語るものと言えます。
武装組織は、爆破について「(偶像崇拝を禁じる)イスラムの教えに反する」と7年前のタリバンと同じ理由を挙げたそうです。【7月29日 毎日】

貴重な遺産がこのような形で失われていくのは非常に残念なことです。
もっとも、バーミヤン石仏爆破の際のタリバン側の「世界は今騒いでいるが、我々が旱魃に苦しんでいるとき一体彼等が何をしてくれたと言うのだ。彼等は我々の命より石仏のほうが大切なのだ。」という趣旨の主張には、一定に耳を貸すべきものがあるとは思いますが・・・。

「テロリストの聖域」。アメリカは、パキスタンの北西部の部族支配地域をそう呼んでいます。
アフガニスタン国境に沿って広がる部族地域の住民は、タリバンと同じパシュトゥン人で、01年のアメリカ軍のアフガン侵攻で政権を追われたタリバンの多数が山岳地帯の国境を越えて逃げ込みました。

部族地域はパキスタン独立前の英国統治時代から、パシュトゥン人の独立国家建設運動を防ぐ目的で、高度の自治が与えられてきた経緯があり、パキスタン政府もこれを受け継ぎ、地域の行政はジルガと呼ばれる長老会議に任され、いまもパキスタン政府の司法権が及んでいません。
このため、この地域にアフガニスタンから逃げ込んだタリバンは、住民の支援のもと補給や休息を行い、自由にアフニスタン側に越境してアメリカ軍やアフガニスタン政府軍への攻撃を繰り返しています。

今このアフガニスタン・パキスタン国境エリアに世界中のイスラム過激派が集結しているそうです。
パキスタンのカシミールなどで活動してきた勢力も、アメリカとの戦いの“主戦場”のこの地に集まってきつつあるあり、かつ、イスラム過激派の大連帯が水面下で進行している恐れもあるとか。
アフガン国境警備隊幹部は、「イスラム過激派に悩む各国は、自国のテロリストがアフガンへ移動するのを黙認しているのではないか。近年の外国人テロリストのアフガンへの大移動は、そう感じざるを得ない」と疑念を持っています。

【メスード最高司令官が目指す和平とは】
パキスタン北西部のトライバルアリアでは、ギラニ政権と武装勢力の間で一時和平交渉が成立しましたが、その後戦闘が再開。ただ、その戦闘の実態は報道関係者の入域も規制されているため、よくわかりません。
「軍も武装組織も町を壊し合っている」と怒りをぶちまける避難民もいます。【7月30日 毎日】
“政府軍は武装組織を封じ込めるため通商路を封鎖。武装組織が得意とするゲリラ戦を防ぐため、潜伏場所となりそうな建物を徹底的に破壊した。武装組織も軍の地上からの接近を警戒し、視界確保のため民家の壁などを壊した。・・・”

そんな状態にある一方で、武装勢力司令官のひとりは、アメリカ軍がパキスタン領内に侵攻すれば、パキスタン軍と協力して戦うことも「状況次第でありうる」と語っています。

トライバル・エリアの武装勢力司令官というと、南ワジリスタン管区のベイトラ・メスード最高司令官が有名です。
ブット首相暗殺も彼の指示によるとの説もあります。(真相はわかりませんが)
そのメスード最高司令官の発言。
「我々はタリバンと一体だ」
「パキスタンは米国の同盟国となったことで、大きく傷ついた」
「自爆攻撃は、我々にとっての核兵器だ」
かつて、ムシャラフ政権との停戦交渉も行いましたが、そんなメスード最高司令官について、「彼が目指した和平とは、タリバンとパキスタンが手を携え、暴力と無縁だった『9・11』前の部族地域を取り戻すことだ」との評も。
【8月1日 

*****米CBSテレビは1日、米軍が7月末にアフガニスタン国境に近いパキスタン北部の部族地域を空爆した際、国際テロ組織アルカイダのナンバー2、ザワヒリ容疑者が巻き込まれ、重体となったか、死亡した可能性があると報じた。ザワヒリ容疑者は米中枢同時テロを指揮したとされるウサマ・ビンラディン容疑者の副官。事実なら、対テロ戦争を進めるブッシュ政権の大きな成果となる。【8月2日 共同】*******
7月28日にパキスタン・南ワジリスタンで、アメリカ軍によるものとみられる、国際テロ組織アルカイダ幹部を狙ったミサイル攻撃があり、ミサイル3発がモスクに隣接した家屋に着弾し6人が死亡しました。
パキスタン治安当局の関係者によると、攻撃の対象となったのは、ウサマ・ビンラディン容疑者やナンバー2のアイマン・ザワヒリ容疑者に次ぐ高いレベルの、中東出身のアルカイダ戦闘員だとのことでした。【7月29日 AFP】

上記【共同】の記事が、この28日のミサイル攻撃(無人偵察機プレデターを使用したものと思われています)と同じ件なのかどうかは定かではありません。
ただ、ザワヒリ容疑者であるにせよ、ないにせよ、あるいはウサマ・ビンラディン容疑者が死亡したにせよ、この地域の情勢が収まることはないように思えます。
“対テロ戦争を進めるブッシュ政権の大きな成果”と言うような状況ではなくなってきているのでは。

タリバンやパキスタン武装勢力が何を目指して戦うのか?
単にイスラム原理主義というより、外国勢力に支配されないかつての平穏な部族社会を取り戻したいということでしょうか?
タリバン支配の特異性もパシュトゥン人部族社会の規範を反映したものと言われています。

【終わりの見えない戦い】
終わりの見えない戦いを見ていると、「もう、好きにすればいいんじゃない?」と、いささか投げやりにもなってきます。
いっそのこと、カンダハルを中心とするアフガニスタン南部とパキスタン北西地域を合体して、タリバン及びその支持勢力に任せる独立国とするかたちで、決着をつけたら・・・という暴論も頭に浮かびます。
カブールなどアフガニスタン北部との間では、住民はどちらでも好きな方に移動できる。
タリバン支配の部族社会がよければそっちへ行ってもらう。
逆にタリバン支配を好まない住民はカブール周辺へ来てもらう。
移住に伴う費用等は国際社会が保証する。(戦闘に費やする費用に比べたらずっと少なくてすむと思います。)
ただし、両者間での暴力行為は一切禁止する。

アフガニスタンもパキスタンも、どうせ今でも実効支配が及んでいない地域ですので、これを割譲しても大きな問題はないのでは。
戦闘がおさまり、国内の原理主義者もそっちへ行ってもらえば、国内安定も実現できますし。

これって、民族浄化につながる発想でしょうか?
しかし、これだけいがみ合って戦闘に明け暮れるよりは、分離して好きにしてもらうほうがいいのでは・・・と考えてしまいます。






コメント (1)
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