孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  アメリカの求める“テロとの戦い”と“民主化”の果てに

2008-08-20 18:54:26 | 国際情勢

(2002年2月 アメリカ・ペンタゴンで会見するムシャラフ大統領とラムズフェルド国防長官(当時) “flickr”より By pingnews.com
http://www.flickr.com/photos/pingnews/2012389506/)

【ブッシュ大統領は感謝している・・・】
パキスタンのムシャラフ大統領についてこのブログでは15日に「辞任?」という形で取り上げましたが、その後やはり辞任に追い込まれたことは報道のとおりです。

ムシャラフ大統領は既に国民の支持を失い、頼みの軍からも見放され孤立無援状態でしたので、“国民から同情する声はほとんど聞かれない。(昨年7月ろう城事件が起き、軍が突入した)「ラル・マスジッド」前では、神学生らが辞任を喜んでいた。・・・・・ムシャラフ氏は国営テレビでの辞任演説開始直前、政府による放送中断を懸念し、民放2局にも中継を認めた。数々の強権を発動し、メディア規制も続けた同氏だが、最後は政府の「強権発動」を恐れながらの孤独な幕引きとなった。”【8月19日 毎日】といった状況のようです。

これまでムシャラフ大統領を支えてきた・・・と言うのか、利用してきた・・・というのか、とにかく密接な関係にあったのがアメリカ。
そのアメリカの国家安全保障会議(NSC)の報道官は18日、「パキスタンの民主化に努力し、テロ組織アルカイダと戦ってきたムシャラフ氏にブッシュ大統領は感謝している」と述べたそうです。

ムシャラフ大統領がアメリカについてどのように思っているのか知る由はありませんが、なんだかいいように利用されたような感じもして、多少今回の辞任には同情を感じる部分もあります。
利用したのはお互い様でしょうが。

【アメリカが求めるテロとの戦い】
パキスタンにおけるアメリカの“影響力”“介入”については、今に始まった話ではありません。
故ブット首相の父親であるブット前首相の失脚、ハク将軍のクーデターにもパキスタンの進める核開発を嫌うアメリカの動きがあったとか、ソ連のアフガン侵攻を受けて、アメリカはパキスタンの核開発を容認し、さらにはアフガンでソ連軍と戦うムジャヒディーン(イスラム聖戦士)を育てるために軍事援助、経済援助するとか、ソ連軍のアフガン撤退後は用済みになったイスラム主義のハク大統領が不可解な飛行機事故で死亡するとか・・・

ソ連のアフガン撤退以降はアメリカの関心はインドに移りパキスタンは捨て置かれるかたちなっていましたが、9.11で状況は再び変わり、テロとの戦いのパートナーとしてパキスタンが脚光を浴びます。
アメリカはムシャラフ大統領に協力を迫ります。協力の見返りには巨額の援助がなされています。

ムシャラフ大統領はアメリカの要請に応えるかたちで、イスラム過激勢力と袂を分かちテロとの戦いに乗り出しますが、特に昨年の「ラル・マスジッド」(赤いモスク)事件でイスラム過激勢力との対立が決定的となり、国内では爆弾テロが頻発、国民の支持が失われていきます。

【もうひとつの要求、民主化】
アメリカが要求したのが“テロとの戦い”と、もうひとつ“民主化”。
テロとの戦いを遂行する過程で政権基盤が揺らぎだしたムシャラフ政権にとって、この両者を同時に満たすことは困難でした。
アメリカが描いたシナリオは、国際的に受けがいい“民主的”な故ブット首相と軍を抑えるムシャラフ大統領の組み合わせでした。
ムシャラフ大統領も結局この線で動きますが、故ブット首相の帰国を許可すると、宿敵シャリフ元首相もドサクサ紛れで結局帰国が認められ、民主化を求める動きが野火のごとく広がります。

大統領再選強行突破のための非常事態宣言についても、権力基盤である陸軍参謀長兼務についても、アメリカは民主化を促すかたちで、ムシャラフ大統領に宣言解除と軍服を脱ぐことを求めます。
これも結局アメリカの要求を入れる方向で進みますが、参謀長を退き、非常事態宣言も解除した大統領に民主化を求める各政党の動きをコントロールする力はもはやなく、故ブット首相のテロによる死亡でアメリカの描いたシナリオもなくなり、拡がる民主化要求の流れに漂流するかたちで、選挙戦へ突入。
選挙での与党敗北後は殆ど実権を失いました。

【前長官復職問題】
ムシャラフ後の政局については、大方のメディアが報じているように危ういものがあります。
世俗主義的なパキスタン人民党(PPP)とイスラム主義的なシャリフ派ではなかなか・・・。
当面、チョードリー前最高裁長官の復職問題と新大統領の人選がありますが、過去のリベート要求で“ミスター10%”の異名があるザルダリ共同総裁の汚職追及をムシャラフ大統領が免除したことについて、チョードリー前長官が復職すると違憲と判断されるとのことで、PPP側も身動きが取りづらい状況です。
一方、シャリフ元首相の意向が強く反映されると、イスラム過激勢力の北西部、アフガンでの活動が更に活発化することも予想されます。

パキスタン北西部と連携するアフガニスタン国内のタリバン活動の活発化に伴い、パキスタンとアフガニスタンの関係は悪化していますが、パキスタンのキアニ陸軍参謀長が19日、アフガニスタンの首都カブールを突然訪問しました。
これは、両国関係の改善に乗り出したとみられています。【8月19日 朝日】

途上国の多くの国で軍事クーデターが頻発したり、国内的に軍部が大きな影響力を持っていますが、政治体制などの問題以外に、これらの国では優れた人材が軍に集中しているという事情もあります。
個人的には“ミスター10%”やムシャラフ憎しに固まるシャリフ元首相の足の引っ張り合いより、キアニ陸軍参謀長のアフガン訪問に期待を持ってしまいますが、それは民主化という大原則からすると困ったことです。


コメント
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