(首都トビシリをパレードするグルジア軍 “flickr”より By openDemocracy
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【開戦の状況】
今日もグルジア、南オセチアの話題。
どうして戦闘は開始されたのか?というあたりについて。
もちろん、南オセチアの分離独立運動、これを陰に陽にバックアップするロシアとグルジア・サーカシビリ大統領が激しく対立してきた長年の経緯、その緊張が最近次第に高まりつつあったということはありますが、戦端を開くうえでは、なんらかのハードル超える行為・思惑が必要になります。
伝えられている情報を並べると、先ず1日夕から2日朝にかけて南オセチア自治州の境界地域で、グルジア軍と自治州独自部隊の間で銃撃戦があり、自治州側の兵士ら6人が死亡、15人が負傷、グルジア側では4人が負傷しました。
グルジア軍幹部は2日、ロシア軍兵士が銃撃戦に加わった可能性があると主張し、ロシアが強く反発していました。
続いて、6日、独立派勢力とグルジア治安部隊が交戦します。
インタファクス通信によると、南オセチアを実効支配する独立派政府は、勢力圏内の要衡をグルジア治安部隊が占拠したため、砲撃戦の末に奪還したと主張。一方グルジア側は、グルジア支配地域の村が砲撃されたため反撃したと主張しています。
グルジアのサーカシビリ大統領は7日、国民向けに演説し、緊張が高まっている南オセチア自治州の紛争地域でグルジア軍に攻撃への応戦を停止するよう命じたことを明らかにしました。
これに先立ち、ヤコバシビリ再統合担当相はグルジア側が一方的に停戦すると表明しています。
大統領はまた、南オセチア分離派政府に「グルジア領内での最大限の自治」を提案し、その上で「ロシアは南オセチアがグルジア領の自治州にとどまる保証人となるべきだ」と述べ、分離派に影響力を持つロシアに紛争回避への仲介を求めています。
ロシア外務省のポポフ特使は、グルジアと独立派政府の代表との3者会談を8日に行い、停戦維持と危機打開のための協議を行うことで合意したことを明らかにし、これを受けて双方が一時停戦に同意したと伝えられました。
こうしたグルジアからの“停戦”提案で事態は収束するかと思われたのですが、逆に一気に拡大します。
グルジア軍は8日未明、分離独立を求める南オセチア自治州の州都ツヒンバリを包囲し、州都へのミサイル攻撃や空爆など本格的攻撃に踏み切り、更に、ツヒンバリへ戦車で進攻しました。
グルジア軍の司令官は8日、グルジアのテレビを通じ「われわれが一方的に停戦したにもかかわらず、独立派が攻撃を継続した。憲法秩序回復のため攻撃に踏み切った」と説明しています。
一方、独立派を支援するロシアは「対抗措置」を表明。同日午後、独立派の反撃を支援するためツヒンバリに戦車部隊を進めました。
現地に駐留するロシア平和維持軍に10名以上の犠牲者が出たほか、多数の死傷者を出している南オセチアの住民の大半がロシア国籍を取得していることなどからメドベージェフ大統領は8日、「犯罪者は罰せられなければならない」とグルジア側を強く非難。
戦端が開かれたあたりの経緯は上記のように報道されています。
一旦“一方的停戦”を呼びかけたグルジアが、“独立派が攻撃を継続した”ということで一気に州都包囲、砲撃、侵攻に向かうあたりが注目されます。
このあたりのサーカシビリ大統領の意図がなんだったのか?
【サーカシビリ大統領の思惑は?】
大統領は8日にロシアが軍事介入して以降、TVインタビューに連日応じ、「小国グルジアをロシアが軍事的に占領しようとしている」と訴えています。
国際世論の同情を買うと言うか、国際世論を味方につけようとする方針のようです。
ロシア反撃後の撤兵、フランスのクシュネル外相が提示したEU停戦案への署名も、そうした「非道を行っているのはロシアであり、グルジアは犠牲者だ」という主張に沿ったもののように見受けられます。
実際、もともとロシアに対する反感・警戒感の強い欧米はグルジア支持の方向で動いています。
ただ、冒頭でも見た戦端を開くまでの経緯は、グルジア側が積極的に戦闘をリードしたように見えます。
ロシアではグルジアの進攻にアメリカがゴーサインを出した可能性が取りざたされているそうです。
ロシアに比べ軍事力で圧倒的に劣るグルジアがアメリカの承認なしに攻撃を決断できるはずがないとの見方です。
しかし“軍事力で圧倒的に劣る”とは言っても、それはロシアとの比較であり、別にグルジアもロシアと全面戦争をする考えなど毛頭ないでしょう。
南オセチア・グルジアにおける兵力で考えると、グルジアの軍事力の強化・近代化は目覚しく進んでいます。
サーカシビリ大統領は04年の就任後、欧米の支援を受けて軍改革を実施。装備も旧式のロシア製兵器からNATO加盟国が使用する戦車や戦闘機への切り替えを進めてきました。
その軍事力への自信から、州都ツヒンバリを制圧できると考えた、あるいは、その軍事力を行使したい誘惑に駆られた・・・ということも想像できます。
オリンピック期間でロシアの反撃も本格的には行われないのでは・・・といった思惑があったのかも。
このグルジア軍強化・近代化を推し進めてきたのがアメリカです。
****米国が育てたグルジア軍とロシアの闘い****
米国政府は2002年の初めから、グルジアに対して、軍事面で莫大な額の支援を提供してきた。米国からグルジアへの支援はまず、『Georgia Train and Equip』(グルジアの訓練・装備)計画という名目で始まり(これは表向き、パンキシ渓谷にいるアルカイダ勢力に対抗するためのものと言われた)、その後は『Sustainment and Stability Operations』(維持と安定の作戦)計画へと引き継がれた。
グルジアは、米国への恩返しとばかりに、イラク戦争では多国籍軍に数千人規模の兵士を参加させた。グルジアは2007年秋に派兵を倍増し、その結果、多国籍軍を構成する各国部隊の中で3番目に多い兵士をこの地域に送り込んでいる。人口460万人の国にとっては、ひとかたならぬ貢献と言えるだろう。
私が2002年秋に初めてグルジアのKrtsanisiにある軍訓練センターに行ったとき、グルジア軍はほとんど民兵と同じような状態で、スニーカーをはき、旧ソ連の制服を着ていた。
しかし、私が2006年のはじめにKrtsanisiを再訪したときには、ここはモデル基地となっていた。最新式の食堂もあり、兵たちは米国式の制服をスマートに着こなしていた(彼らはイラクに向かう兵だった)。
このときは南オセチアも訪れたのだが、ツヒンバリの外れの検問所にいたグルジア軍兵士たちは、米陸軍の余り物の制服の上に、新しいボディアーマーを身にまとっていた。
ロシアからの干渉の是非は別として、グルジアは、新たに手に入れた軍事力を使って、国内紛争を武力で解決しようという誘惑に駆られたのではないかと懸念される。
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米国の軍事訓練の専門家の1人は、もっとぶっきらぼうな形で私にこう語った。
「われわれは彼らにナイフを与えている。彼らはそれを使うだろうか?」8月11日 WIRED VISION】
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グルジアのイラク派兵も分離独立派からすれば、将来自分達に向けられるであろう軍隊の強化訓練ということにもなります。
ロシアの独立系軍事アナリストには、「サーカシビリ大統領は軍事力を背景に、いつでも州都制圧は可能とみている。一時撤退したのは国際世論の支持を受けるための政治的判断だ」との声もあるとか。
また昨年、野党勢力を武力弾圧して以来、人気下降気味のサーカシビリ大統領が、国内引き締めのため進攻に踏み切った側面も指摘されているそうです。
【イメージ戦略】
ロシアのメドベージェフ大統領は9日、グルジア軍が進攻した南オセチア自治州の現状を「人道上の大惨事」と指摘し、負傷者の手当てや避難民の受け入れなどの人道支援に全力を挙げる意向を表明。
ラブロフ外相も8日、グルジア軍の攻撃を「民族浄化」と指摘するなど、ロシア側はグルジアの行為の非人道性を内外にアピールする作戦に出ています。
かつてのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でセルビアは国際世論を敵にまわし、“民族浄化”のレッテルを貼られて“悪役”として、NATOによる空爆で徹底的に叩かれました。
ロシアもグルジアも、自分達が犠牲者であることをアピールして、国際世論の支持を狙っているようです。
そうした、指導者達の開戦への思惑や国際世論獲得競争に関わりなく、突然の攻撃に直面して逃げ惑い、傷つき、家族を失う人々は、ひたすら相手への憎悪を膨らませていきます。
【つのる憎悪】
*****グルジア:首都にも避難民らの姿…政府の無策に抗議****
「すべてのロシア人を殺してやりたい」。市北部ウェルフェビ地区の団地街で首に重傷を負ったマラネイリさん(80)は入院先の市民病院で無表情につぶやいた。近郊の村で8日午前、ロシア軍の攻撃を受け、さらに避難先の親類の団地でも同日夜、空爆の直撃を受けた。団地では人々ががれきから家財道具を探し出していた。
5階建て団地の最上階に1人暮らしの病院職員マオワェラさん(60)も突然の爆撃で窓が吹き飛ばされ、抜け落ちる床と一緒に地階まで転落、気を失ったが、奇跡的に救出された。「ロシアはグルジア独立の際、平和的に我々のもとを去った。それがなぜ再びこんなことをするのか、どうしても理解できない」と力無く語った。【8月10日 毎日】
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グルジアのサーカシビリ大統領は11日、ロシア軍が同国領内に侵攻したのを受けて、「ロシアはグルジア全土を征服しようとしている。グルジア軍は政府とともに最後まで抵抗する」と危機を訴え、独立を守るため団結するよう国民に呼び掛けました。