孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  ミンダナオ島 MILFとの和平交渉破綻 戦闘激化

2008-08-23 14:57:39 | 国際情勢

(ミンダナオ島の中心都市ダバオにある、ミンダナオの平和と統一を願うモニュメント “flickr”より By taralets_pilipinas
http://www.flickr.com/photos/28215915@N05/2738754968/)

【調印目前から一転、戦闘拡大へ】
フィリピン・ミンダナオ島のイスラム反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)とアロヨ政権との間の和平交渉については、8月10日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島 MILFとの和平交渉は再開したようですが・・・」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080810 で触れたところです。

マレーシアを中心とした仲介でなんとか交渉再開に漕ぎ着けていたのですが、5日の調印を目前にしてフィリピン最高裁が4日、アロヨ政権が予定していた和平合意文書調印を一時差し止める異例の決定を下し、その影響が懸念されていました。

8月10日ブログで“その後どうなったかの続報も見ていません。”と書いたのですが、まるでその答えを教えてくれるかのように、その日から連日のように、武力衝突再開の記事を目にするようになりました。
そんな答えなら、あまり見たくもなかったのですが・・・。

ミンダナオ島の北コタバト州で10日、03年の停戦協定締結以降、最大規模の武力衝突が発生。
最高裁の調印差し止めの決定を不服とするMILFの一部勢力が、ミンダナオ南部のキリスト教系住民の村落を中心に抗戦に転じたようです。
この戦闘で、住民13万人が避難を余儀なくされました。

12日、政府軍は迫撃砲や軍用ヘリコプターなどで、MILFの拠点に激しい攻撃を加え、難民は16万人に拡大。
「戦闘では宗派に関係なく普通の住民が犠牲になっている」との声も。
避難民の多くは女性や子どもたちで、食糧不足による健康の悪化が懸念されており、世界食糧計画(WFP)はコメ400トンの空輸を始めました。
また、国連の人権委員会も、政府軍とMILFの双方に戦闘を停止し人道危機を回避するよう求めています。

17日午前、ミンダナオ島南ラナオ州で車列で移動中の陸軍部隊が攻撃され、軍によると兵士4人と政府系民兵3人が死亡。
18日、国軍の災害対策本部は、MILFと国軍の間で戦闘で住民16人と双方の兵士計4人が死亡したと発表。一部メディアは住民30人以上が犠牲になったと報道。

国軍の反撃を受けたMILF側が住民を一時、人間の盾として連れ去ったとも、あるいは、MILFは商店からの略奪や住宅への放火を行っているほか、大半がキリスト教徒である村人を無差別に襲撃しているととも。
国軍側は新たに兵員を追加投入。

【合意破棄】
拡大する戦闘に、18日、アロヨ大統領は「国軍と国家警察に国土防衛を指示した」とする異例の声明を発表。
そして21日には、ついに大筋で合意していたMILFとの和平合意を破棄しました。

****比政府、反政府勢力との和平合意を破棄*****
和平合意では、MILFが拠点とするミンダナオ島にあるイスラム系住民の「ホームランド(先祖伝来の土地)」について、独自の治安維持、金融、行政事務、教育、法律などのシステムを認めるほか、天然資源の管理に完全な自治権を与えることなどが盛り込まれ、40年にわたる流血の歴史を終わらせる「包括的な協定」への道筋を整える「歴史的な合意」とされていた。
 しかし政治家らは「憲法違反」だと反発、ミンダナオ島のキリスト教系住民も抗議デモを行う中、フィリピン最高裁は4日、和平合意文書の調印を一時差し止める決定を下した。
 
 Lorelei Fajardo大統領府副報道官は、和平合意破棄について「苦痛を伴うステップだ」としつつ、グロリア・アヨロ大統領は「和平に尽力している」が「世論に配慮しており、憲法を支持している」と述べた。【8月21日 AFP】
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政府側は「現在のミンダナオの状況では、覚書に含まれる条項を再検討するほかない」としていますが、MILFのイクバル副議長は「すでに合意されたもので、(再検討は)受け入れられないし、再交渉するつもりもない」と話しています。

調印目前だった合意内容がどのように“憲法違反”なのか、詳細はわかりません。
イスラム系住民のみへの逆差別になる、自治権が国家の一体性をそこなう・・・そのような内容でしょうか?
キリスト系住民の不安はよくわかります。

それにしても、アロヨ大統領は最高裁での差し止めという事態を予期していなかったのでしょうか、それともある程度そのような事態を予測しての調印の姿勢だったのでしょうか?
海の向こうの話でよくわかりません。

“40年にわたる流血の歴史を終わらせる「包括的な協定」への道筋を整える「歴史的な合意」”が流れてしまい、新たな流血の1ページが書き加えられる、なんとも残念な結果です。
少数派との対立では、ある程度多数派が譲るかたちでないと合意は難しいのでは。
カトリック住民の不安については、合意後の対応でカバーすべき問題かと思えます。
武力衝突という住民の血で購うような、また、お互いに憎悪をたぎらせながら維持する国家の一体性に何ほどの価値があるのか、理解できません。

【バリク・イスラム】
そんなフィリピンからこんな話題も。

****イスラム教への改宗者増加 フィリピン、中東出稼ぎ機に****
 カトリック教徒が大半のフィリピンで、イスラム教への改宗者が増えている。中東への出稼ぎを機に「異教」と出会う人が多いが、国内での根強い差別などで過激主義に走る信者もいる。
 フィリピンでイスラム教改宗者は「バリク(戻る)・イスラム」と呼ばれる。正確な人数は不明だが、首都圏最大のモスクでは毎年約1千人が改宗。「中東への出稼ぎをきっかけに改宗する人が増えている」とアルマレス氏。中東への出稼ぎ者は年間約40万人で、原油高騰に伴うアラブ諸国の好況で増加傾向だ。
 異国での孤独感から改宗する人がいる半面、「イスラム教徒の方が職探しや雇用条件で有利」という人も。とはいえ国民の8割がカトリック信者の同国は改宗者に居心地のいい場所ではない。
偏見や抑圧への反発もあるのか、原理主義に傾倒する改宗者も現れた。
改宗者は伝統的イスラム社会からも厳しい視線を浴びる。南部のイスラム武装勢力の幹部は「彼らを完全に信じることはできない」。改宗動機が就職や昇給など「不純だから」という。
国家警察のテロ対策担当者は「改宗者はイスラム社会とキリスト社会から二重の差別を受ける。真のイスラム教徒であることを示そうと、過激思想に傾く人がいる」と指摘する。【8月23日 朝日】
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コメント
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