AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

5890:Model120

2022年04月17日 | ノンジャンル

 リスニングポイントに置かれている黒い革製の3人掛けソファに座った。リスニングポイントからか見て右手には大型のオーディオラックが設置されている。

 そのオーディオラックには見慣れた感のある常設機器が並んでいた。その中に見慣れないオーディオ機器が1台混じっていた。

 それがZandenのフォノイコライザーである。横幅は35cmほどであろうか高さもそれほどないので実にコンパクトである。LINNのKLIMAXシリーズのサイズ感を思わせる。

 その姿は先日東京の郊外にあるオーディオショップで見かけたModel100とはサイズ感などは似ていたが、違うモデルのようであった。

 「これはModel120・・・ZandenのModernシリーズのひとつでZanden製品の中では比較的リーズナブルな価格設定のものかな・・・コンパクトだけど電源は別躯体になっているし、イコライザーカーブは5種類あるし、かなり凝った内容のフォノイコライザーでね・・・」と小暮さんは説明してくれた。

 「型番からすると先日見かけたModel100の後継機なのかもしれない・・・それにしてもとても上品な外観だな・・・」と思いながらそのフォノイコライザーを眺めていた。

 フロントパネルの向かって左端には電源オン・オフ用のプッシュボタンがあり、その右には入力選択のノブがあり、さらにその右には5種類のイコライザーカーブを選択するノブがある。そして右端には極性を切り替えるプッシュボタンがある。

 シンプルなフロントパネルからは淡く繊細な印象を受ける。天板は鏡面仕上げで、頻繁にクロスで拭き上げたくなる輝きを誇っていた。

 レコードを聴かせたもらった。フォノイコライザー以外はオーディオショップ・グレンの常設機器である。

 まずかかったのは、ヨハンナ・マルツィのヴァイオリンによるシューベルト「ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調 D.934」であった。ヨハンナ・マルツィは、ルーマニア出身のヴァイオリニストである。

 最初の1音が出た瞬間から耳は自然に引きこまれていく。マルツィと言えば、その流麗な歌い回しが魅力的であるが、その流麗さは極めて素朴な質感を有しているのでけっして鼻につくことはない。

 幻想曲を聴き終えた。実に良い演奏である。ピアノ伴奏は、ジャン・アントニエッティである。このピアニストは有名ではないが、とても良い印象を受ける。特に、この幻想曲では伴奏をつけるだけでなく、ピアニストにも大きな貢献が求められる。十分にその責任を果たしていると感じられた。

 Zandenのフォノイコライザーは、LEAK POINT ONE STEREOとの比較になるが、実に滑らかでさわやかな質感を有していた。

 「これは『絹ごし』ですね・・・LEAKは『木綿』でしょうか・・・冷奴なら『絹ごし』、鍋物なら『木綿』といった感じですかね・・・販売価格はいくらの設定なんですか・・・」と小暮さんに尋ねた。

 「これね・・・販売価格は440,000円。新品の定価は税込みで869,000円だからね・・・でも、もう買い手が決まっているんだ・・・」と小暮さんはさらっと言った。

 「そうですか・・・それは残念・・・これ欲しかったな・・・じゃあ、先日見かけたModel100を購入しよかな・・・」と独り言を言った。

 その場で先日訪れたショップに電話してみた。すると「すみません・・・Model100は売れました・・・1週間ほど前です・・・」との回答であった。

 「なんだか流れが悪いな・・・」少し鬱屈した気分になった。「じゃあ、新品買えば・・・」と小暮さんはあっさりと言った。

 「Zandenの中古品なんてめったに出ないはず・・・たまたま立て続けに見かけたが、これは奇跡に近い・・・新品を購入するのが唯一の方法か・・・」

 そんなことを思いながら次なるレコードを聴いた。次なるレコードはMuzaレーベルである。ブロニスワフ・ギンペルのヴァイオリンによるドビッシーのヴァイオリンソナタであった。

 幻想的で近代的な響きがリスニングルームに響いた。私の頭の中では「新品を買うべきか・・・」という問いで満たされていたが、やがて「急いては事を仕損じる・・・」という考えが支配的になっていった。

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