日々草

「つれづれなるままに・・」日々の事を記す。

屍とともにおめかしの引力

2016-05-19 | リブレリア
朝日新聞のコラムで楽しく読み続けていた川上未映子の「おめかしの引力」
ついにこれが一冊の本になって「おめかしの引力」再び。
着飾ることの快感や、買物に感じるエクスタシー、激しい後悔や自己嫌悪まで背中にくくりつけておめかしを語る。

他人からみると、そんなことに命をかけてとひかれてしまったり、
どーてもいいじゃんという些末なことに血眼になって執着してみたり、おめかしって大変と思わせてくれるこの一冊。
おめかしとは、手のかかる子ほどかわいいみたいなもんではなかろうか。
手がかかるからこそ楽しいおめかし。
だからなのか、一文、一文に激しく肯き、渦となって去来する想い。


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クローゼットはぎちぎちに埋まっていて箪笥もぎゅうぎゅう。衣類のために存在している寝室ではあるのだけど、じゃあちょっと出かけようか&人に会いにゆこうかというときに着ていく服が、ないんだよ。
これまでの、決して小額ではない投資というか浪費というかは理屈でいうとすべておめかしに置き換わっているはずなのに、どれもすべてが鮮やかなまでに、死んでいる。
そう、ものによるけど、服は死んでしまうのだ。
ファストファッション店で購入したものなんて買った瞬間から死にかけているし、じゃあ服の寿命は値段に比例するのだろうか?答えはノン。
たとえばいくら高級でも布や縫製がしっかりしていても、べつの意味で死んでしまう服もある。
それは「一度着れば、なんだか気が済んでしまう」種類の服で、たとえば今ここから見えているあの紫の「ジョジョの奇妙な冒険」風ジャケットなんて、この先着る自分が想像できない。
おなかに巨大なリボンがついている蛍光オレンジのワンピ―ス、通称「蟹道楽」も、なんか無理。
ぜんぶ、みんな、高かった。ゆえに彼女たちは成仏できず、生きる屍となって今では部屋の保温に貢献している(とくに冬)。

川上未映子 「おめかしの引力」 愛のリサイタルより抜粋



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寝室という名のクローゼットで生きる屍に添い寝をしてももらっているあたしは、うずくしかない。
首がもげるほど。
確かに売場に並んでいた鮮度の高い洋服は、いつの間にかに我がクローゼットで死んでゆく。
そこにかかっているあたしのジャケットも腐ってもタイならぬ、ジョジョ風でもGUCCI・・・・・なのに






年老い、腐って、屍になり、化石となり、退化して、風化してゴミの形相。
連なる洋服は二重、三重のカーテンや、おしゃれじゃないタペストリーとなって、確かに部屋の保温に役立っている(とくに冬)。



すべてにおいて肯くのである。
リズム感のある言葉を持って語られるおめかしに関する出来事、時に告解ともとれるその内容を堪能してほしい。保温性のあるその部屋で死にそうな&死んでしまった洋服にまみれてこの本を読んでもらいたい。
そしてあなたにも思い当たるであろう数々の出来事で肯いてほしいのである、首がもげるぐらいに。
屍に囲まれて。





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