原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

若田さんの帰りを待つ女

2009年07月03日 | 時事論評
 その女とは、この私のことである。

 宇宙飛行士である若田光一氏の国際宇宙ステーション(ISS)滞在が、スペースシャトル“エンデバー”の故障等による打ち上げ延期に伴い約1ヶ月も延びているニュースを見聞して以降、宇宙空間で今尚一人漂う若田氏に思いを馳せては、居ても立っても居られない私なのである。
 

 要らぬお節介とは重々承知しつつも、それには私なりの理由があるのだ。

 元々、私はNASAからいくら頭を下げて頼まれようが「宇宙飛行士」にだけは絶対になりたくなかった人間である。
 なぜならば、昔から多少“閉所恐怖症”的精神構造が内在していることを自覚しているためである。
 例えば、一人暮らしの時や今でも一人で在宅中に、トイレのドアを閉め切って用を足す事は避けている。ドアが故障して出られなくなって狭い密室に一人で閉じ込められる状況を想像するだけで、パニックに陥りそうになるからである。
 それから、車に乗っていて渋滞にはまるのも苦手である。(そういう場合は必ず窓を開けて、外界との交流口を確保するように心がけている。) 同様に、電車が不通となって中に何時間も閉じ込められる事故が日常よく発生するが、あのような場にもしも直面した場合、この私が真っ先にパニック状態に陥って周囲に迷惑をかけることであろうと想像する。 飛行機も一時苦手だった。ただし、飛行機の場合は閉所空間とは言えある程度の広さがあることと、運命共同体の人々が同乗していることが救いとなっている。

 とにかく、閉所の密室性が高い程、恐怖感が増大するのだ。
 この4月に我が子と一緒にお台場の科学未来館へ出かけた折に、米スペースシャトルのレプリカの室内を見学した際にも感じたのだが、外界から完璧に閉ざされたあの狭い空間内、しかも周囲はまだまだ未知の宇宙空間で、何日も過ごす宇宙飛行士達の類稀な精神力には感服申し上げる私である。

 ましてや、今回若田氏は単独での長期間の宇宙滞在である。
 おそらく元々強靭な精神力を備えられているのに加えて、宇宙飛行士としての十二分の訓練をクリアされている若田氏であることと拝察するが、3か月の滞在予定が、迎えのスペースシャトルの故障等の事情により約1ヶ月も延期されることの心理状態とは如何なるものなのであろう。
 若田氏のISS内での“日常生活”は、各種の世界的宇宙開発事業の準備等で至って多忙であるそうなのだ。そのような充実したスケジュールにも助けられ、氏はいつも変わらぬ平常心で延期となった宇宙での生活を今もこなされているのかもしれない。


 それにしても、宇宙飛行士の宇宙滞在とは私のような凡人の想像以上に過酷であるようだ。
 7月1日(水)朝日新聞コラム「ニュースがわからん!」においても、この若田氏のISSでの滞在が延びたことについて取り上げられていたのだが、その記事を読む限り若田氏が宇宙生活により被る事態は壮絶であるようだ。
 例えば、飲食物に関しては食料の備蓄や尿の再生により補給されるため心配はないとのことで私もひと安心である。 一方、無重力状態で起こる骨や筋肉の衰えの対処は、骨粗しょう症の薬の常用に頼るしかないとのことである。(薬嫌いの私にはこれは厳しい現実である…) 若田氏はISS内で毎日2時間きちんと運動に励むそうなのだが、それでも帰還時には60代並の筋力にまで衰え、それは一気に20歳も年をとるのと同様であり、その回復に帰還後数ヶ月を要するそうだ。(一般人が経験し得ない無重力のなせる業とは、これ程までに過酷であることを思い知らされる。)

 そうでなくても既に骨粗しょう症対策を考慮している私など、やっぱりNASAから「宇宙飛行士」にスカウトされなくて命拾いしたとも言えるなあ。


 さらに私が懸念するのは、ISSに滞在する若田氏の“人との接触のなさ”である。
 もちろん、最先端の通信手段により、NASAはもちろんのこと、この日本や世界とも影像や音声により日々ISSでの活動状況を通信するのも若田氏の主たる業務ではあろう。
 だが、生身の人とのかかわりを人間関係におけるコミュニケーションの主眼とし、ネット上の人との関係を常にもの足りなく思っている私としては、何ヶ月もの期間ISSに単独で滞在して、生身の人間とのスキンシップ等の接触ができない若田氏の精神的バランスの安定がどのように保たれるのかについては、やはり大いなる心配事である。


 それにしても、宇宙飛行士の「適性」とは人間の常識を逸脱しているとも思える程超越したもののようだ。
 その中でも特に、今回ISSでの長期滞在を実現している若田氏の“宇宙適性力”たる能力的、精神的、肉体的なパワーには脱帽するしかない。

 若田氏の7月11日の地球帰還後の宇宙での諸活動の報告や、その後のご本人の世界的ご活躍に期待する以前に、スペースシャトルさん、早く若田さんを地球に連れて帰って来てあげてよ! 
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9 Comments

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あこがれ・・・ (ドカドン)
2009-07-03 18:30:32
男性ならあこがれの職業でしょうか?
私は、2泊3日でもいいから宇宙ステーションに泊りたい。
そしたら、原さんに宇宙食の土産を持って帰りますよ・・・。

と言ったものの、私も閉所恐怖症が、あると思っています・・・、ロケットは、狭いから嫌だ!
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Unknown (田舎人)
2009-07-03 19:55:29
閉所恐怖症ですか、狭いところむしろ好きです。そういう点ではロケット内は大丈夫だと思いますが、どうしても克服できそうも無いのが「高いところ」でも、宇宙空間って高いところという部類だろうか?
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心理分析 (空 乏層)
2009-07-03 23:46:46
核シェルターの中の人々、エア・パニックでの追いつめられた人々、銀行内に強盗によって閉じ込められた人々等の心理状態を描いた映画やフィクションを見たり読んだりしたことはありますが、実際に何か障害があったら、死に直結する宇宙空間で生活した人の心の持ちようが聞ける機会があるといいですね。私は最近引きこもり気味なんですが、宇宙ステーションは空間に浮いた隔離病棟の様なもの、モルモットの様な検体としての役割を果した人の強靭な精神状態を是非知りたいと私も思っています。宇宙飛行士は質問に対する応えはさぞかし適切で嘘偽りはないでしょうから、興味津々です。
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帰還してからのリハビリ (issei)
2009-07-04 00:17:22
 高所恐怖症葉までは行かないと思いますが、今では低くなってしまった横浜マリンタワーでもお尻がムズムズした記憶があります。これを恐怖症というのかについては判りません。
 一方閉所恐怖症については全く感じた事がありません。むしろ車の窓を閉めておいた方が安全であると思っているし、安心できます。
 若田さんが帰還してからのリハビリは創造を絶するものではないかと思っています。昔夏になると方々で遠泳なる催しが行われていました。海で4~6時間泳ぐ訳ですが、陸上に足をつけたときの感覚たるや驚きです。自分の足の感覚はなく、ヘナヘナと座り込んでしまいます。海中で長時間過ごすと言うのは無重力と同じなんですね。たった4,5時間でこの有様です。3ヶ月以上宇宙に滞在した場合は幾日も立てない状況になると思います。ただ一言、頑張れ若田さん!
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同感です! ()
2009-07-04 10:17:25
おはようございます!
こんな事で尊敬する原さんと思いが共有?出来るなんて~
実はEも閉所恐怖症なのです
MRIで検査を受けた時に初めて気づきました
それ以来トラウマになって
初めて行った美容室で自動シャンプーの器具を頭に取り付けられて
顔にカプセルのようなものを被せられた時にも
気分が悪くなり中止してもらいました
若田さんの強固な精神力で無事お帰りになる事を
祈るばかりです
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ドカドンさん、田舎人さん、空乏層さん、isseiさん、宇宙は人類の夢であるけど、その現実はロケットの内部は狭い… (原左都子)
2009-07-07 09:10:35
男の子の憧れの職業と言えば、パイロットであり宇宙飛行士ですよね。
しかし、その現実は危険と背中合わせであり、厳しい訓練に耐え抜く頭脳と体力と精神力要する過酷な職業であることを思い知らされます。

ドカドンさん、宇宙食のお土産を持って帰って来て下さるとは、とってもうれしい♪♪のですが、あれはまずそうです。
あのレトルト食品を4ヶ月も食べ続ける忍耐力も、想像を超えていますね!

田舎人さん、確かにそもそも宇宙空間が高い所なのかも?ですね。それを言えば、地球なんて宇宙空間に浮かんでいるわけですから、それを想像しただけで「高所恐怖症」の人は足がガクガクするかもしれません。

空乏層さんのおっしゃるように、宇宙飛行士とは一種モルモット的職業と言えますよね。宇宙空間へ旅したと言っても、ずっとシェルター内部で隔離されて暮らした訳で、本当に宇宙へ行った実感があるのかどうか疑問です。
それよりも、空さんがおっしゃるように、その類稀な強靭な精神力こそが後々の科学に役立ちそうです。

isseiさん、4,5時間の遠泳とは凄いじゃないですか!! そんなご経験があるのですね。
陸に上がると足がガクガク状態でへなへな崩れ落ちるのは重々想像がつきます。
若田さんも帰還後リハビリが大変でしょうが、類稀な精神力で乗り切って欲しいものです。
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Eさん、まったく同経験のお話に驚きです! (原左都子)
2009-07-07 09:23:01
私の新記事「恐怖心の恐怖」の中でも少し述べさせていただいたのですが、Eさんがお書き下さった美容院におけるパニック状態のご経験と、ほぼ同じ経験を私もしています。

私の場合は、美容師さんがシャンプーして下さっていたのですが、やはりどうしても拘束感に耐えられずパニック状態に陥り「すみませんが、トイレへ行かせて下さい!!」と叫びました。「後少しで終わりますが」と言われてももう既に限界を超えていて「具合が悪いので、今すぐに行かせて下さい!」と言って、席を離れたものです。
その後数年、美容院恐怖症で美容院へ通えず、自分でカットと白髪染めをする年月でした。
(お陰で、カットに関しては皆が驚く“腕前”です!!?)

更年期にドップリと浸かっている現在、むしろ精神的に安定してきたようで閉所恐怖症的症状も相当軽くなり、美容院へも歯科医へも行けるまでに回復し、人並みの生活に戻ったようです。
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お久しぶりです (ガイア)
2009-07-07 23:57:44
お久しぶりです。エッセイを拝読しました。宇宙空間に興味を抱く私にとりましては、面白い視点です。

若田光一さんを初めとする宇宙飛行士を退屈させない為に、宇宙空間にラウンジバーを造りましょう。宇宙飛行士達が宇宙コミュータでラウンジと宇宙基地を往復する日が到来するかも分かりません。青い地球を眺めながら宇宙ラウンジで重ねる杯は如何なものでしょうか。でも、若田さんには今の所、酒は無縁なものかも知れません。

ついつい馬鹿なことを考えてしまう私です。宇宙空間での酔いは如何程のものでしょうか。

未だに子供の心を持ってる私です。ジェット機のパイロットや宇宙飛行士の世界に関心がありますから、夢が膨らみます。それらの世界やそれらの関連領域を鑑みると、「人間の知の世界」が目の前に広大に拡がっている事に気づき、ショックを受けます。

後、何年生きられるかは自分自身分かりませんが、夢は持ち続けたいです。

このような夢を与えてくれるのも、「原佐都子エッセイ」の凄さ・偉大さ、だと思っています。
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ガイアさん、宇宙旅行にでも行かれていましたか? (原左都子)
2009-07-08 09:00:23
ガイアさん、本当にお久しぶりでした。

やはり、この記事にはガイアさんよりコメントを頂かないことには始まらないですね。

宇宙空間にラウンジバーですか。
青い地球を眺めながらグラスを傾けるのはさぞやロマンティックなことでしょう。
でも無重力での二日酔いを想像すると、ちょっと厳しいものがありそうですよ。

閉所恐怖症の私にとっては狭いISS内での宇宙生活に耐えられそうもありませんが、神秘の宇宙の偉大な存在は人間にとって永遠の夢でありたいですね。
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