定年になって、気持ちがすごく楽になったことの一つが、先輩や取材先などから「そんなことも知らないのか」と言われることがなくなったことです。
私の先輩記者で、大阪府の予算案を丹念に読み込む男性がおりました。数百ページから、数十ページまで十数冊あります。記者室に来ると、その予算案を青鉛筆と赤鉛筆を持ちながら一冊ずつ読んでいきます。一日中、読み込みをしていて、それが何日も続くのです。「担当課長に聞いて、ポイントだけを聞いて来ればよいのに」と何度も思いました。
その間、取材活動はストップしたままですから、ある日思い切って「どうして予算案の全文を読むのですか」と聞きました。
すると、ある体験を話してくれました。公害問題がひどかった時代、公害に詳しい弁護士に取材に行きました。事前の資料は読んでいませんでした。弁護士は「そんなことも知らないで取材に来たのですか。私には君に一から説明する時間はありません」といい、最低限必要な本、報告書などの名前を並べたあと、読んでから来るように伝えたといいます。
この先輩ほどではありませんが、取材先から「そんなことも知らないのか」と言われてことは何度もあります。内輪の雑談でも、芥川賞や直木賞を取った本、ベストセラーの本、話題になった映画、テレビドラマなども目にしていないと、「そんなことも知らないのか」という顔をされます。
知識を追いかけない生き方は、私には心地よいようです。知らないことを言われたら、「そうなんですか」と答えています。そして、必要があれば素直に尋ねるようにしています。
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