今年、四才になった冴姫(さき)は蝉(せみ)の幼虫を神社の境内で見つけ、家へ持ち帰って虫籠で大事に育てていた。大事に育てるといっても、ただ籠に入れていただけだが、それでも砂糖水を入れたお皿は籠の中へ入れておいた。しばらくすると、その蝉の幼虫は動かなくなった。成虫への羽化が始まったのである。最初、冴姫は死んだのかも知れない…と思った。
「ははは…そうじゃないよ冴姫、これから脱皮して成虫になる準備をしているのさ」
父親の満男はそう言って涙する冴姫を慰(なぐさ)めた。
「ぅぅぅ…そうなの?」
冴姫は半信半疑ながらも、父親が言うことを納得した。
しばらくすると、虫籠の中の蝉の幼虫は脱皮し、一匹の蝉の幼虫へと変化していた。それに気づいたのは、冴姫が朝、目覚めたときだった。冴姫は嬉(うれ)しくてはしゃいだ。そうこうして、しばらくの間、蝉は虫籠の中で飼われていた。冴姫はご機嫌だったが、それでも夏の半ばになると、また動かなくなった。冴姫は、また涙を流して泣き始めた。
「ははは…蝉はね。ひと夏で、さようならするのよ」
母親の智江はそう言って涙する冴姫を慰めた。
「ぅぅぅ…そうなの?」
冴姫は半信半疑ながらも、母親が言うことを納得した。
翌年、五才になった冴姫は蝉の幼虫を、また神社の境内で見つけ、家へ持ち帰って虫籠で大事に育てた。大事に育てるといっても、ただ籠に入れていただけだが、それでも砂糖水を入れたお皿は籠の中へ入れておいた。しばらくすると、その蝉の幼虫は動かなくなった。成虫への羽化が始まったのである。最初、冴姫は死んだのかも知れない…と、また思った。
「ははは…そうじゃないよ冴姫、これから脱皮して成虫になる準備をしているのさ」
父親の満男はそう言って涙する冴姫を、また慰めた。
「ぅぅぅ…そうなの?」
冴姫は半信半疑ながらも、父親が言うことを、また納得した。
しばらくすると、虫籠の中の蝉の幼虫は脱皮し、一匹の蝉の幼虫へと変化していた。それに気づいたのは、冴姫が朝、目覚めたときだった。冴姫は嬉しくてはしゃいだ。そうこうして、しばらくの間、蝉は虫籠の中で飼われていた。冴姫はご機嫌だったが、それでも夏の半ばになると、また動かなくなった。冴姫は、また涙を流して泣き始めた。
「ははは…蝉はね。ひと夏で、さようならするのよ」
母親の智江はそう言って涙する冴姫を、また慰めた。
「ぅぅぅ…そうなの?」
冴姫は半信半疑ながらも、母親が言うことを、また納得した。
翌年、六才になった… …。
いつしか老婆になった冴姫は蝉の幼虫を、また神社の境内で見つけ、家へ持ち帰って虫籠で大事に育てた。大事に育てるといっても、ただ籠に入れていただけだが、それでも砂糖水を入れたお皿は籠の中へ入れておいた。しばらくすると、その蝉の幼虫は動かなくなった。成虫への羽化が始まったのである。最初、冴姫は死んだのかも知れない…と、また思った。しかし、慰める両親はもうこの世にはいなかった。冴姫は涙を流して泣き続けた。
こんな悲しいお話、嫌ですよね。^^
完