水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑える短編集 -50- 再生

2022年05月05日 00時00分00秒 | #小説

 日曜の午後、多山は乱雑に部屋内に放置された小物を整理していた。
『いや、これはいらんぞ…』
 そう思えた多山はその小物を捨てる方へ分別した。ところが、しばらくすると、ふとまた使うような気がした。とはいえ、その小物は滅多と使わないもので、それを使う状況はごく限られているのだった。しかもその小物は少し痛んでいて、そのまま使える代物(しろもの)ではなかった。多山はその小物をともかく使う方へ分別しなおした。
 多山はしばらく分別作業を続け、ある程度、部屋が片づいたときだった。
『いや、これはいらんぞ…』
 多山はまたそう思える中途半端な小物に遭遇(そうぐう)した。先ほど迷った小物と同じで、その小物も使う状況がごく限られたものだった。しかも、その小物は先ほどの小物と同じで少し痛んでいるではないか。多山は使う方へ分別した先ほどの小物を手にし、今、迷っている小物と比較してみた。そのとき、ふと多山は閃(ひらめ)いた。二つの小物を少し加工すれば、新しい完璧(かんべき)な小物が再生できるぞ…と。思ったらそのまま放置しておけない性分の多山は、さっそく加工しようと道具を出して二つの小物を弄(いじく)り始めた。そして小一時間が経ったとき、多山の手には再生され完成した新(あら)たな小物が握られていた。
『やったぞっ!! 再生だっ!』
 多山は成し終えた充足感に包まれていた。ただ、部屋はまだ片づいておらず、散らかっていた。

                    完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする