水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (61)迷惑(めいわく)

2021年01月01日 00時00分00秒 | #小説
 ペチャクチャと周囲の雰囲気を考えもせず五月蠅(うるさ)く話し続ける女性がいる。オバチャン族? とか巷(ちまた)では言うそうだが、この手の迷惑(めいわく)は一般的に見て、傍(はた)迷惑である。^^ まあ、その声を柳に風と受け流せるか、イラつくかは個々の思いようの違いだろうが…。^^
 とある日の早朝である。司塚(しづか)は地下鉄に揺られながら、いつものように通勤途上にいた。
「ちょっと、すみません。詰めていただけます?」
「えっ!? あっ! はあ…」
 着物姿の楚々(そそ)とした女性の声に、司塚は思わず座席を詰めていた。その女性が魅力的だったということもある。^^ 幸い、一人分の座席のスぺースは、どうにか確保できそうだった。
 しばらくして、列車が次の停車駅で停車すると、通勤風の若い男が勢いよく乗り込んできた。その男は辺(あた)りをキョロキョロ! と小忙(こぜわ)しく見回し、座る座席がないと知ると、不満そうな顔つきで司塚の前へ立った。そしてひと言、唐突(とうとつ)に言った。
「すまないけど、詰めてくんないっ!」
 司塚が座る両横にスぺースなどない・・と誰の目にも明らかだった。にもかかわらず・・である。普通に考えれば、迷惑この上ない話である。だが、司塚は冷静な男だったから、そう興奮することもなく着物姿の女性が座る反対側へ少し移動する仕草をした。すると妙なもので、その動きに呼応(こおう)するかのように、次々と横の客達が少しづつ詰め始めた。そしていつの間にか、司塚と着物の女性との間に一人分のスぺースが確保されていたのである。その確保されたスぺースへ、サッ! と、すきま風のように男は座った。その態度は、ごく当然! という横柄(おうへい)な態度だった。司塚としては着物の女性との間を寸断され、残念! この上ない気分である。^^ まあそれでも、トラブルにはならず、司塚はいつものようにその日の通勤列車を降りることが出来た。これがもし、『なんなんだ、あんたっ! これ以上、座れんのは見りゃ分かるだろっ!!』と憤慨(ふんがい)して言い返したとすれば、恐らくトラブルになっていたことだろう。
 このように、迷惑を迷惑と思わない対応で、迷惑も迷惑にならない・・という、なんともややこしい思いようのお話である。^^

                      

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