水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <25>  成(な)りゆき

2018年12月25日 00時00分00秒 | #小説

 やろう! と思ってもいないのに、ついつい、その場の雰囲気に流されてやってしまうことがある。人はその状態を、成(な)りゆき・・と表現する。成りゆきを分析すれば、そこには本人の主体性の欠如、心の不安定な乱れなどの条件に、哀(あわ)れみや同情心が加わることにより発生する確率が高いことが窺(うかが)えるのである。
 とある喫茶店である。一人の男が、のんびりとコーヒーを啜(すす)っている。そこへ、もう一人の男が外から入ってきた。
「おおっ! 久しぶりだなっ、村川(むらかわ)!」
「なんだっ! 町山(まちやま)じゃねぇ~かっ!」
「偶然(ぐうぜん)ってのは、あるもんだなっ!」
「ああ…。よかったら、どうだっ、これからっ! 具合悪いかっ?」
 村川は手指を猪口(ちょこ)に見立て、飲む仕草(しぐさ)をした。 
「いや、そんなことはない。小一時間、潰(つぶ)そうと思ってたところだ…」
 よし、決まった! とばかり、二人は店を出ると、行きつけの飲み屋へと歩(ほ)を進めた。
「小一時間って、ゆっくり出来ねぇ~のかっ?」
「いや、そんなこともねぇ~んだがっ。うちのカミさんが五月蝿(うるさ)くってなっ!」
「ははは…相変わらず敷(し)かれっぱなしかっ?」
「ああ、相変わらずなっ! ははは…」
 二人は、成りゆきで飲むことになり、成りゆきに任(まか)せて時(とき)を過ごした。そうこうするうちに酔いもいい具合に回り、二人は成りゆきのように出来上がっていった。成りゆきとは恐ろしいもので、町山にすれば小一時間のつもりだったものが、三時間を優(ゆう)に超していた。
「こ、こりゃいかんっ! 俺、帰るわっ!」
 町山は腕を見て時の経過を知り、ギクッ! と驚いた。
「そうかっ? せっかく盛り上がったのになっ!」
「ああ、またなっ! ぅぅぅ…今日はこの後(あと)が辛(つら)いっ!」
「ははは…今日もだろっ! 支払いは俺がっ!」
「すまねぇ~なっ! いつも…」
「ははは…いいってことよっ!」
 町山は村川と飲むとき、いつも成りゆきに流れることにしていた。その訳は単純で、支払いの心配がなくなるからだった。
 成りゆきを分析すれば、格好いい股旅時代劇ではないが、足の向くまま気の向くまま・・そのまま流れに任せた方が割合、スムーズにいく確率が高く、好結果が得られるようだ。^^

                                 


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