玄関戸はスリガラス製のサッシ戸だから、人の動く姿が朧(おぼろ)げながら映り、二人にはなんとも不気味に思えた。
「どうしたのかしら?」
「… 前の道で交通事故? ははは…そんな馬鹿なことはない。バイクも飛ばせん細道だからな?」
「あなた、遅刻するわよ」
「ああ…」
いつもとは違う二人の会話がキッチンに届き、小次郎も玄関へ出ることにし、重い腰を上げた。毎朝、恒例(こうれい)になっている家の周り一周を思いついたこともある。
丁度、小次郎が玄関へ出てきたとき、里山が玄関戸を開けた。それと同時に、入り口外にいた報道陣が後ろから押されて家の中に雪崩(なだ)れ込んできた。里山はその勢いに押され、出るどころか中へ押し戻(もど)された。
「な、なんなんですか! あなた方はっ!!」
里山が鼻息の荒い大声を出した。
「す、すいません、押されたものでして…。里山さんでしょうか?!」
報道陣の中の記者らしき一人が里山に質問をした。それと同時に、入り口外からフラッシュの閃光(せんこう)が里山めがけて走った。
「え? ええ…。ちょっと、やめてもらえます!」
里山はフラッシュが光った外を指さした。カメラマンが数人、里山めがけてシャッターを切ったのだ。