『実は、かくかくしかじかでして…』
「なるほど。かくかくしかじかか…。そりゃ問題だ。で、この俺にどうしろと?」
『それなんですが。どうもドラの奴、根っからの人見知りっていうか、初対面に弱いっていうか…そうみたいなんですよ』
「ほう…。それが弱点と? それで?」
『ええ、だからその弱点を利用しない手はないと思うんですよ』
「なるほど…」
『そこで、ご主人の出番となります』
「どういう出番だい?」
里山と小次郎の掛けあい漫才は続いた。
『だから、他人が近づけばいい訳ですよ。ご主人と奥さんが出られたあと、ほとんど人が来ないのがいけない』
「そんなこと言ったって、留守の家に誰か来られても困るじゃないか」
『ええ…。問題は、そこなんです』
「誰かに顔を見せてもらえば、いい訳だな?」
『そうなります…』
小次郎は悟(さと)りきった導師のような厳(おごそ)かさで言った。
「考えてみるよ。数日、猶予をくれるかい?」
『はあ、それはもう…。別に急ぎませんから』
小次郎は有難そうに言った。