水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第三十九回)

2012年06月03日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第三十九回 
「ほんまかいなあ~! 寝惚けてたんと?」
 勢一つぁんの笑顔が次第に沸騰して、赤くなっていく。
「いや、ほんまなんや。俄かには信じて貰ええへんとは思たんやけど、まあ、ひと通り聞いて貰うて、手立てを考えて貰おて思てな…」
「いや、ワシには信じられへんわ。おまはん、どっか身体の具合が悪いんと違うか?」
「ちょっと、栄養失調気味やてことは、あんねんけどな…。ほんでも、わいは正気やったんやで…」
「もうちょっと、詳しい聞きたいな」
 敏江さんが呆(あき)れ顔で二人の前を素通りし、畑仕事に店を出ようとした。
「おとうちゃん、ちょっと採ってくるさかい、店、頼むで…」
「ああ…」と気のない返事をした勢一つぁんは、それどころどはなく、すでに直助の話に嵌(はま)り込んでいた。敏江さんが、ガラッ! と、引き戸を開けて店を出ていくと、勢一つぁんは、身を乗り出して耳を欹(そばだ)てた。もう店を開ける時間なのだが、商売そっちのけなのである。まあそれは、本屋の直助にも言えたのだが…。


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