水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第七十回)

2011年11月13日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
    
第七十回
行進する兵隊達は、急に脚が動きだしたものだから、勢い余って前の者にぶつかり転倒し、隊列は土煙を上げてその場に崩れ落ちた。先頭に立ち隊列の指揮を執(と)る隊長らしき男も転び、指揮を執る余裕などはない。
「○△※◎$□!(何が起こったのだ!)…」
「●■◆▽□…(さあ、私にも、さっぱり…)」
 幽霊平林の横で行進を見守る将軍と思しき軍首脳の一人とその横の副官らしき男の遣り取りが幽霊平林の耳に入ってきた。もちろん彼にはその言葉は理解出来ないのだが、二人が云わんとする気持は、朧げながらもなんとか理解出来た。
『課長に報告しよう…』
 そう呟(つぶや)くと、幽霊平林は大混乱する将兵らを尻目にスゥ~っとその場から格好よく消え去った。そして、人間界へと、たちまち現れた幽霊平林だったが、少々、慌てたためか、田丸工業の屋上に姿を見せてしまった。とはいっても、上山以外の者には見えないのだから、失態というほどのことはではない。じ十一時を少し回った頃だろうとは、太陽の昇り具合で大よそ分かったから、返って現れた場が屋上でよかった、ともいえる。
━ 今、課内へ現れても課長の邪魔になるだけだな。ここは一番、眺めのよい屋上で、しばらく時を過ごそう ━ などと都合のよい発想で幽霊平林は巡っていた。如意の筆の絶大なを一刻も早く課長に…とは思っていたが、急ぐことでもないかと、また思い直した。そうはいっても、同じ眺めを三十分も見続ければ、さすがに飽きがくる。その眺めが初めてならいい゛か、田丸工業の屋上は元々、幽霊平林が勤めていた会社であり、彼も幾度となく眺めたことがあったから尚更だった。上手くしたもので、ダレて限界が近づいた頃、食堂へ現れると、昼休みに入る十二時の数分前だった。もうしばらくすれば、多くの社員達が雪崩れ込んでくるだろうし、その中に上山の姿もあるに違いない…と幽霊平林は推測し、漂って待つことにした。


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