水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第八回☆不用普請(4)

2008年12月24日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第八回 不用普請(4)

7. 普請奉行・堀田采女正の屋敷(内景)・夜
    材木問屋の美濃屋善兵衛が来訪中。堀田の横に置かれた善兵衛が
    献上した菓子鉢(中は小判の包金)。
   善兵衛「今後とも、よしなに…」
   堀田  「(横の菓子鉢の蓋を少しずらして開け、中を見遣って)分かって
        おる。心配致すな」
    脇息に腕を預けて小嗤いする堀田。
   善兵衛「次の普請は、どの辺りで御座居ましょうや?」
   堀田  「余り大きな声では申せぬがのう…」
    腕を脇息に預けたまま、反対側の手の扇子で手招きする堀田。堀
    田へ耳を近づける善兵衛。善兵衛に少し広げた扇子を使い、小声
    で耳打ちする堀田。   
   善兵衛「なるほど…(小嗤いして)」
   堀田 「(善兵衛から離れ、姿勢を正して)だがのう、あの一帯は、長
        屋が数多くてのう…、想い通り事がなるかは分からぬぞ」
   善兵衛「へぇ、急ぎませぬ故…、その節は、よしなに」
   堀田  「いつになるか、しかとは返答できぬが、まあ、この話が潰(
        ついえ)ても、他にも話はあるでな」
   善兵衛「孰(いず)れにしろ、今後も、よしなに(頭を軽く下げ)」
   堀田  「心に留め置く(小嗤いして)」
8. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
    柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が、いつものように橋の中ほどで
    話をしている。仙二郎、欠伸をしながら欄干へと凭れ、
   仙二郎「そうか…。伝助の長屋が潰されるかも知れねえってことは、
        だ。このまま、放ってもおけめえ」
   お蔦  「まだ噂なんだがね。十手にゃ、その辺りの事情は分かんな
        いのかい?」
   仙二郎「一連の工事の大本は普請奉行だ。普請奉行は堀田采女正だ
        が、どういう経緯(いきさつ)か迄は、お前(めえ)の探りがなき
        ゃ、俺にも分からねえ」
   お蔦  「やはり、私の出番のようだね」
   仙二郎「そういうことだな。まあ、宜しく頼まぁ(二朱を手渡し)」
   お蔦  「(二朱を受け取り、袖へと通して)暫(しばら)く、貰うよ」
   仙二郎「ああ…。急がねえから、じっくり探ってくれ」
   お蔦  「あいよっ」
   仙二郎「ほどほどに探れりゃ、知らせてくれ。塒(ねぐら)で待つ」
   お蔦 「ああ…」
    二人、薄闇の橋を互いに反対側へと去っていく。茜色に映え、暮れ
    泥む空。烏(カラス)の鳴き声S.E。S.E=烏(カラス)の鳴き声。カァ
    ー
カァー。


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