水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第五回☆強欲一味(6)

2008年11月17日 00時00分00秒 | #小説

    影車      水本爽涼
    第五回 強欲一味(6)

19. 又吉の長屋前・夕暮れ時
    又吉が屋台を担ぎ、商売に出ようとしている。今日は子供達の遊
    ぶ姿はない。そこへ、お蔦が屋根から舞い降りる。
   お蔦  「これから商いかい? ご苦労さん」
   又吉  「(影車の口調で)何でぇ?」
   お蔦  「いや、なあに…、頼まれ序(ついで)に近くへ来たもんだから
        寄ったまでさ」
   又吉  「手筈以外(いげぇ)で会うのは、ご法度(はっと)なんじゃねえ
        のかい?」
   お蔦  「そうなんだがね。ただ、久しぶりに手筈が有りそうだ、とだけ   
        云いたかったのさ」
    そう云うと、お蔦、また屋根へと飛び上がる。屋根を見上げる又吉。   
   又吉 「ワルは絶えねえや…。じゃあ、またな」
    又吉が片手を上げて声を掛けるのと同時に、お蔦の姿、消え去る。   
20. 寄場奉行・門倉内膳の屋敷(隠し蔵の中)・夜
    手燭台を持つ門倉。立てた蝋燭の灯りで千両箱の山を目の当たり   
      に見分して、
   門倉  「(北臾笑んで)あちら、こちらと入ってきおるわ」
    そこへ、家臣①(黒装束)が入ってくる。
   家臣①「これらの金、如何なされるご所存で御座居まするか?」
   門倉  「ん? まあ見ておれ、今に分かるわ(嗤う)」
   家臣①「楽しみで御座居ますな。…ところで、我々は動かずとも宜しい
        ので?」
   門倉  「そのことよ。町方も、続く不審火に躍起となっておる。加えて、
        火盗改めも動き始めた由(よし)、暫(しばら)く表立った動きは   
        控えるがよかろう。追而(おって)、沙汰致す」
   家臣①「畏(かしこ)まって御座居まする…」
    素早く蔵から退散する家臣①。
21. 仙二郎の住居(同心長屋)・朝
    梅雨空に紫陽花が鮮やかに映えて咲く。雨は陰鬱にシトシト降り続
    いている。幕府の祝い事があり、休めることになった仙二郎。長寝
    していた布団から立ち上がり、庭を見遣る。
   仙二郎「振ってやがる。梅雨入りか…。暫(しばら)くは番傘が手離せ
        ねえや」
    と空を見上げ、顔を洗いに動く。そこへ、同じ長屋に住む宮部が入っ
    てくる。
   宮部  「少ししたら、お芝居でも見に行かない?」
    急に現れた宮部に、少し驚いて、
   仙二郎「いやぁ、おはようございます。芝居見物ですか? いいですな
        ぁ。長いこと御無沙汰ですよ。…確か、最後に見たのは二、
        三年前の正月でしたかねぇ」
   宮部  「そう…。そりゃよかった。じゃあ、半時(とき)
ほどしたら、また寄   

        りますからね(微笑んで)」
    宮部、戸を開け出て行く。仙二郎、やれやれ…と、溜め息をつく。


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