中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

節糸を巻く

2015年12月29日 | 制作工程
今年も暮れようとしています。
工房は本日が仕事納めです。

先月の染めの仕事の後は織物設計をし、あとは糸をひたすら巻き、整経、仮筬、巻き込み、経て継をしていました。

糸巻きは一番簡単で単純な仕事のように思うかもしれませんが、節糸の扱いはこれがなかなか難しいのです。この糸巻は時間がかかりますが、後の作業のすべてに繋がってきます。

まず糸に糊をつける前には綛の綾振りを正しい状態に直します。染めや洗いで糸が乱れているからです。綛を整えたうえでゆっくりと座繰りを回します。
フシの状態をよく見ながら巻きます。

トップ画像のように、赤城の枠外しの糸は蚕が吐き出したウェーブが残っていて本当にきれいな形です。うっとり眺めることも・・。

途中、糸の結び目が出てきます。写真では分かりずらいですが、指の上の、この結びは玉結びになっていますので、
この段階で必ず機結びに変えます。織っているときに筬に引っ掛かり糸を切ることになるからです。

糸を持つ左手の指の腹で結び目を感じとります。糸は強く掴んではダメで、軽く当てているだけです。強く掴むとせっかくつけた糊を落とすことになりますし、糸を伸ばしてしまうことにもなります。伸ばされた糸は織りにくいです。風合いも悪くなります。

帯のやや太い節糸になるとさらに糸の表情は豊かで好ましいのですが、

取り除くフシと、とりあえずそのままにしておくものとを見分けます。
ちなみに上の写真の節はそのまま、こちらの小さな節は少し整理します。

さなぎの脱皮殻なども入っていて(写真中ほどの黒いところ)糸巻きをしながら取り除くことになります。

糸くず入れはこんな感じになります。

木枠に巻き取る時には整経に必要な回数を数えます。途中手を休めるときにはメモをしておきます。数が多い時は100回ごとにおはじきを置いたりします。急に人に話しかけられたりしてフッと忘れてしまうことがあるのですが、木枠に巻かれた糸の厚みで大体の量を掴むこともあります。数字だけに頼ってもいけません。

回転のカウンターを取り付けることも考えたことがあるのですが、頭の体操のためには糸のかたちを見ながら、数も数え、綾振りも自前でするのは同時にいくつものことを進めていく訓練にもなりますので今のところ頑張っています。電動の糸巻機に変えるつもりもありませんし、座繰りの糸は電動の座繰り機では巻けません。

今の時代にこんな悠長な仕事はどうなのかと思う方もあるかもしれませんが、この豊かな糸巻の時間を手放す気にはなりません。
機械化、工業化で良くなった点ももちろんあるのですが、効率を上げることばかりの時代は経済も行き詰り、自然や人の心を荒らし、壊した側面があったことを見逃すわけにはいきまん。
質の豊かさへシフトした慎ましやかな時間のなかの幸福に、上質の手仕事も重要な役目があると思います。

丁寧に糸巻きを終え、整経して鎖に編まれた格子着尺の経糸。

千切りに巻き込まれ、機に上がる出番を待ちます。

こちらはもう一反、ヨコ絣用に小綛にした真綿紬糸。仕事始めは絣の括りからです。

国内外、大変な時代ではありますが翻弄されることなく、こんな時にこそ人がやるべきことをやることだと考えます。
「善きもの、美しいもの」が私たちを救うのではないでしょうか。

さて、明年2月下旬に北鎌倉の東慶寺さんのギャラリーで個展をさせて戴くことになりました。頑張って制作に励んでいます。詳細はHP、ブログでお知らせします。
この時期、境内は梅も見ごろということですので是非お越しいただきたいと思います。

ブログ読者の皆様もどうぞ良いお年をお迎えくださいませ。



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