伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

土砂災害

2021年07月06日 | エッセー

 今年5月20日から警戒レベルが変更になった。これがどうもいけない。役所言葉の多用で生活実感にフィットしない。
  1. 早期注意情報
  2. 注意報
  3. 高齢者等避難
  4. 避難指示
  5. 緊急安全確保
 「警戒レベル4までに必ず避難を レベル5では手遅れ」と呼びかけているが、なんとも言葉が固い。そこで、一計を案じた。こう言い換えてはどうだろう? 
  1. 早期注意情報 → 『気をつけて!』 
  2. 注意報 → 『こりゃヤバいぞ!』
  3. 高齢者等避難 → 『年寄逃がせ!』 
  4. 避難指示 → 『みんな逃げろ!』 
  5. 緊急安全確保 → 『命を守れ!』 
 熱海の土石災害は奇しくも昨年同日の熊本豪雨から丸1年目であった。静岡県は土石流の崩落は宅地造成の排土、盛土が滑り落ちた可能性が高いと発表。4日、川勝平太静岡県知事は全国知事会の緊急広域災害対策本部会議後の記者会見で「防災の専門家の意見も聞き、知事会として森林の乱開発にかかわる対応の強化が必要」とし、「土石流と開発の因果関係は明確でないが、今後、検証したい。」と意見を述べた。
 至極真っ当な反応である。推するに、川勝知事は返す刀をリニア トンネル工事推進派とJR東海に向けて振り下ろそうとしているのではないか。
 昨年8月16日配信のYahoo!ニュースを引く。
〈トンネル工事で南アルプスの地下水が漏れ、県中西部を流れる大井川の水量が減少するという「水問題」が表向きの理由だ。だが、問題の根源をたどると、JR東海の度重なる“静岡飛ばし”に対する地元の根深い怨念が見えてくる。〉
 もちろん熱海と直結する問題ではない。しかし「開発と災害」に次数を上げれば、事は静岡に限らない。自然と人工、天然と人為の拮抗。もっといえば、SDGsという世界的イシューにも通じてくる。川勝知事の一徹にエールを送りたい。
 早い話が、熱海の土石流は人災である。14年広島で起こった「8.20広島市豪雨土砂災害」もそうだ。本来は住めないところ、住んではいけないところに居住地を造成したことに根因がある。国交省によると大規模盛土造成地は全国に約5万箇所あるという。今年3月、同省は盛土造成地の安全対策を加速すると発表した。その矢先であった。一層の強化に期待したい。
 繰り返すと、人災であるならばパラダイムシフトが必須だ。今年1月、拙稿『犯人はどっちだ』で触れた斎藤幸平氏の「人新世の『資本論』」に帰着する。「人新世」とはコンクリートが地層として残る時代区分をいう。億年単位である。『猿の惑星』ではないが、かつて巨大火山があったと覚しき付近にやたら長いトンネルが剥き出しになってはいないか。現代人に関係ないと打っ遣ってはなるまい。サピエンスとは知恵である。知恵の中核は想像力だ。ホモ・サピエンスが自らサピエンスであることを放棄するわけにはいかないだろう。 □