岸田首相は少子化問題は「静かなる有事」だとし、年頭の記者会見で「異次元の少子化対策」を掲げた。2021年の合計特殊出生率は1.30にまで低下。2022年1~10月の出生数も66.9万人に留まっており、1年間の出生者数は過去最少だった2021年の81.1万人を大きく下回る可能性が高い。
少子化は、経済成長力の低下をもたらすとともに、年金・医療など社会保障制度の安定性を揺るがすという。
しかし、本当か?
少子高齢化は世界的、歴史的趨勢である。いまだに経済成長を志向すること自体が無理なのだ。それでなくとも、野放図に積み重ねた国債の重圧に日本経済が押し潰される確率の方が格段に高い。「成熟経済」こそ目指すべきで、そのためにパラダイム・シフトを図らねばならない。
社会保障もベイシックインカムなど、衆知を結集すれば活路は開く。人類は今日までいくつもの危機を超えてきたではないか。少子高齢化が最速で進む日本こそ、そのロールモデルとなるべきだ。
そこで頂門の一針。養老孟司氏が山極壽一氏との対談でこう語った。
〈子どもの数が減ったら一人ひとり、丁寧に見ることができるようになるねっていう話を、ひとことも聞いたことがない。子どもが減ったから、小学校が統廃合する。「必ず」統廃合するんですよ。つまり、今までの教育で「十分だ」って言ってるんです。そうでしょう? 子どもが減ったら、コストを減らすために学校を減らす。ずっとこれをやっているんです。何、それ(笑)。〉(「虫とゴリラ」から)
なんと子どもへの愛情溢れる言葉であろうか。統廃合は市場原理に毒された成長経済の発想だ。子どもの成長は一顧だにされていない。
最後の「何、それ(笑)」に高邁な学識と遠い視線が感じられてならない。養老さんにとってのコストは子どもたち(保護者も)にとっての教育コスト。今までの費用で2倍の教育リソースを受けられる。行政は予算の効率的運用しか頭にないから、てめーらの銭勘定ばかりしている。
やたら「異次元」の与太を飛ばす御仁には痛い一喝だが、馬耳東風だろう。 □