拝啓 吉田拓郎様
「返れ!」
聴衆から一斉に野次を浴びた。
ビール瓶が飛んだステージもあった。
罵声の中で歌う。そんな季節だった。
それでもあなたは、やめなかった。変えなかった。
当時主流の「権威への批判」や「反抗」ではなく、
徹底的に「みんなにわかる」歌で。
時代に抗わず、時代を歌う。
そんな正直なあなたの歌が、私のー、
J─ポップの礎になりました。
今はこのジャンルで、多くの人が歌っています。
当時とはまた違った混沌とした時代でも、歌は、人々の救いとなっています。
きっとあたなたは「俺には関係無い」と言うと思います。
それでも言わせてください。
私を生み出し育んでいただき、ありがとうございました。
これからも私はあなたを、あなたの歌を愛し続けます。
敬具
J─ポップからの感謝状
朝日新聞2023年元旦号 新年別刷り第2部 12・13頁 avexによる2面ぶち抜き広告である(全文、そのまま)。
驚いた。調べたところでは朝日だけだった。
さすがによく練れたメッセージである。「『みんなにわかる』歌」がキーセンテンスであろう。これが「罵声」を呼んだのだが、見事に「時代」を描写していた事実が隠されてしまった。「町の教会で 結婚しようよ」に東京かぶれの田舎青年だと酷評もされた。しかし、元気な日本を生んだのは紛れもなく彼らだった。東京への「反抗」と「憧れ」が正にその東京で筋肉剥離を起こした。今になって飽和に至り、田舎への逆転が始まっている。時代の皮肉か。
「私を生み出しの」の対句は「俺には関係無い」だ。牽強付会をすれば、「関係無い」のは「勝手にやってくれ」ではなく、自らとは「関係無い」『次代』へのバトンリレーと捉えたい。これは反対給付義務の履行そのものではないか。
思想家 内田 樹氏はいう。
〈何かを贈与されたときに「返礼せねば」という「反対給付義務」を感じるもののことを「人間」と呼ぶわけですから。贈与されても反対給付義務を感じない人は、人類学的な定義に従えば、「人間ではない」。
贈与の連鎖は何があっても断ち切ってはならない。これは贈与のいちばん大切なルールです。パスを受け取ったら、次のプレイヤーにパスを回す。自分のところにとどめてもいけないし、パスを送ってくれたプレイヤーにそのまま戻してもいけない。次のプレイヤーヘパスしなければならない。クリスマスプレゼントも同じです。親から受け取った贈り物を返す相手は自分の子どもです。〉(「困難な成熟」から)
突飛だが、箱根路を駈けた青年たちの必死の襷リレーが心をいっぱいに満たした。 □