伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

こいつは笑える! お奨めの一書

2007年09月19日 | エッセー
 中国の戦国四君に、趙の平原君がいた。食客数千人。その中に名代の屁理屈屋、公孫竜がいた。詭弁家である。口から先に生まれたこの男、黒を白と言い包(クル)める。「白馬は馬に非ず」と言い募った。誰も太刀打ちできない。ある時、堅くて白い石は存在しないと言い出した。堅いかどうかは手で触れねば判らない。色は目で見て識別する。ゆえに堅石、白石はあっても、触覚と視覚が別物である以上、堅くて同時に白い石はない、と論を立てた。元祖こじつけ、である。「堅白同異」の来由だ。「非学者、論に負けず」の類であろう。古代ギリシャでいうところのソフィストである。
 どうも海外では法曹関係者、特に弁護士は公孫竜の一派、ソフィストの末裔と見られているらしい。半分はステータスへのやっかみもあるだろうが、半分は正体を突いている。

◇まだ柔らかいセメントに弁護士が首まで埋まってるんだけど……。
 『もっとセメントを持ってこい』
◇男がワニを連れてバーに入ってきた。
 「ここでは弁護士も飲めるのか?」男は尋ねた。
 「もちろんですとも」バーテンダーは答えた。
 「そいつはよかった! 俺にはビール、俺のワニには弁護士を1人出してくれ」

 海外のジョークである。(株)ブルース・インターアクションズ発刊「世界一くだらない法律集」から引用した。先月25日に出たばかりの本だ。イギリスでは2000年の初版、125万部を売り上げている。これは笑える。相当に笑える。お奨めだ。かつて取り上げた「世界の日本人ジョーク集」の5倍、「裁判官の爆笑お言葉集」の10倍はおもしろい。著者はデヴィッド・クロンビー、イギリスの元判事、女性である。
 乗り物などの待ち時間、新幹線の車中、トイレの中でもってこいだ。床の中ではやめたほうがいい。おかしくて目が冴えてしまう。いくつか紹介したい。サワリは止めておく。原書はこの比ではない。もっと笑える。
 
 法廷(海外の)での冗談のようなやり取り
◎被告人と
尋問:ご主人は朝起きた時、最初にあなたに何と言いましたか?
被告:「キャッシー、ここはどこだ?」って。
尋問:それであなたはなぜ逆上したのですか?
被告:私の名前はスーザンなんです。
◎証人と
尋問:あなたが立っていた場所から彼が見えましたか?
証人:頭が見えました。
尋問:その頭はどこに見えましたか?
証人:ちょうど肩の上です。

 では、本題の『くだらない法律』をいくつか ―― 。⇒ 以下には愚考を記した。というのも、本書には解説らしきものが全くない。読者に丸投げだ。悔やまれる点だが、あるいは詮索も含めて投げて寄こしたのかもしれない。

◆男性が公共の場で放尿したくなったら、自分の所有する車の後輪に向けて、右手を車についた姿勢でなら許される。<イギリス>
 ⇒ その時、左手はどうなっているのだろう。左手を車についてはいけないのか。こういう法律がいかなる文化的背景から生まれたのか。興味が尽きない。

◆自殺は死刑。(現在、この法令は廃止されている)<イギリス>
 ⇒ 極め付きだ。廃止しなくてもいいのではないか。形容矛盾など気にする必要はない。かなりの抑止力にはなるはずだ。かつ、最高に笑える。

◆スコットランド人を見かけたら、日曜日以外なら即座に弓矢で撃っても法律的に何の問題もない。<英 ヨーク市>
 ⇒ 民族攻防の中で生まれたものにちがいない。やがて歴史に埋もれ、そのまま今日に。早く廃止にしないと、犠牲者が出るやもしれぬ。ま、それはないか。「日曜日」の文言はほかにもかなりあった。「金曜日」もあった。曜日にこだわるのは、宗教的事由か。

◆フランス中のあらゆるブドウ園において、UFOを停めておいたり着陸させたりしてはいけない。<フランス>
 ⇒ かつて、なにか事件があったのだろうか。ブドウとUFO。そのつながりや、いかに。

◆なんらかの魔法、妖術、魔術を使える振りをしたり、練習したり、あるいはなんらかの超自然現象、神秘的な技術や科学に関して知識を持っている振りをした者は、その違反行為に対して1年の懲役刑に処されるとともに、行為を改めることに努める義務を負う。<アイルランド>
 ⇒ 日本でもぜひ法制化してほしい。テレビにはこれら魑魅魍魎がうごめいている。フトギなんとか、エバラ某、などなど。ヤツらは公序良俗にも反する。ただしマリックはちがう。あれは魔術という名の芸だ。

◆スノータイヤをつけた車はすべて、スノータイヤ装着時は時速160キロ以上で走行してはならない、と書かれたステッカーをダッシュボードに貼っておかなければならない。<スイス>
 ⇒ 160キロ超、できるものならやってみろ! スイスはけっこうこの手のものが多い。景色だけではなく、法律も売りになる。
 
◆酔っ払っていればカンガルーとのセックスが認められる。<オーストラリア>
 ⇒ いかに豪州といえども、まさか。ひょっとして、素面でのなににまつわる事件があったのか。それにしてもカンガルーだけに、想像を絶する飛躍である。

◆セックスが許される年齢は法的に定められていない。<日本>
 ⇒ 海外から見ると、日本のほうが異常なのだろう。諸外国では年齢の下限を決めているところが多い。さすがに、上限の規制はないが。本書で日本が取り上げられているのはこれだけだ。

◆飛行機の乗客は、飛行中に飛行機から足を踏み出してはいけない。<米 メイン州>
 ⇒ セスナであれば足を出すことぐらいはできるが、踏み出すとなると至難の業だ。パラシュートはどうなのだろう。「踏み出し」の「踏み」に抵触するか。でも最後は地面を踏むことになるのだが……。

◆雪男を殺してはならない。<カナダ ブリティシュコロンビア州>
 ⇒ 雪女はどうなのだろう。小泉八雲が泣くか。

◆隣人の口の中に放尿してはいけない。<米 イリノイ州シャンペーン市>
 ⇒ なんじゃ、それは! なにかの罰か、それとも挨拶か。はたまた、かつてそのような事件があったのだろうか。法律は最低限の道徳ともいう。これがミニマムだとすると、この市ではいたるところ人糞だらけということか。すげー。

◆冬の間、入浴は禁止。<米 インディアナ州>
◆何人も最低1年に1回は入浴しなければならない。<米 ケンタッキー州>
 ⇒ どっちの州でもいい、すぐにでも引っ越ししたい。さすがにアメリカは物分かりがいい。実に寛容、大らか、懐が深い。つまり、年に1回入ればいいんだ。もう、ユートピアではないか。

 その他、公孫竜のお株を奪うような『掘り出し物』のオンパレードである。読書の秋にお奨めの一書だ。□


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