伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

2007年8月の出来事から

2007年09月04日 | エッセー
■ 朝青龍に2場所出場停止  
腰のけがなどで巡業に休業届を提出しながらモンゴルでサッカーをしていたことから日本相撲協会が決定(1日)。本人は治療のためモンゴルへ帰国(29日)。
  ―― 朝青龍潰すにゃ白鵬は要らぬ、サッカーボールがあればいい。本当にそんな雲行きだ。
 まず、処分の問題。明らかに重すぎる。武蔵丸が去って3年半余、一人横綱として大相撲を支えてきたのは誰あろう、朝青龍ではないか。功績と不祥事を差し引き勘定してみれば、答えはおのずと解る。相撲協会は裁判所ではない。いな、裁判所でもこんな厳しい判決は出さない。だがマスコミでは、処分が相当を欠くとの声を聞かない。いつものように、寄ってたかって袋だたきだ。仮病説もある。ならばお前が横綱になってみろと言いたいのだが、なる気もなく体格も貧相であるに違いない。
 次に、過剰な倫理感を大相撲に持ち込まないことだ。異論もあるだろうが、昨年7月21日付本ブログ「露鵬 乱心」に論を任せ、ご一読を願う。
 3点目に、彼はジャパニーズ・ドリームの体現者であることだ。世界第2位の経済大国に渡り、まさに裸一貫、夢を掴んだ。ただアメリカン・ドリームとは違う。大相撲は大リーグとは異なる。野球はグローバル・スタンダードだが、大相撲はジャパニーズ・スタンダードなのだ。国のかたちが違う。第一、引退したのち部屋を開いて相撲界に残るには日本国籍が必要となる。今のところ、親方では元高見山・現東関親方しかいないのではないか。ジャパンでのドリームは手にしても、ジャパニーズになる覚悟はあるのか。それを迫るのが角界である。この辺りの構造性に切り込まなければ、木を見て森を見ざるだ。今回の騒動はジャパニーズ・ドリームの偏頗をも突き付けている。現役は外国人で補いが付いても、後々の角界は立ち行くのか。はなはだ心もとない。

■ 中華航空が那覇空港で炎上
台北から到着後。乗員・乗客165人は無事。(20日)
  ―― 生々しい映像を観て、「緊急地震速報」を連想した。たかだか数秒、長くて20秒ぐらい前。それで何ができる、と眉に唾していたからだ。
 爆発は最後に乗務員が脱出して12秒後だった。待てよ、地震速報もいいかもしれない、生死を別けるに十秒は決して短くはない、と考え直した。 
 ただ、課題もある。慌てて急ブレーキを踏む車があると余計な事故を呼ぶ。地下街などでパニックが起こり、出入り口に殺到するとどうなるか。さまざまあるが、なにせ世界初だ。記録に残る大地震のうち2割は日本で起こっている。ならば、日本が先鞭をつける値打ちと資格は充分にある。実施は10月。5月時点で、3分の1しか周知されていない。啓蒙と訓練が急がれる。
 あらゆる交通機関の中で飛行機の事故率は際だって低い。ただし事故の生存率は限りなくゼロに近い。もしもの時、『千の風』に「乗る」ことも「なる」ことも叶わぬ。ただ一点付け加えると、事故を起こしがちな会社は確かにある。人にもそれはいえるし、国にもある。インドネシアの飛行機はEUには出入り禁止だ。安全が文化として根付くには長年月の辛労が必要となる。  

■ 佐賀北が初優勝
全国高校野球選手権決勝で逆転満塁本塁打。広陵(広島)を5―4で下した。(22日)
  ―― 胸のすく勝利だった。前日から支(ツカ)えていたものが雲散霧消した。癪は準決勝、試合前の広陵高校監督のコメント。曰く、4点が勝敗ライン、3点までは取られても構わない。ウチが4点目を取れば勝てる。この『確信』は選手にしかと打ち込まれていたのだろう。試合後の選手のコメントはおうむ返しであった。試合の展開は以下の通り。
  広   陵  110 100 010
  常葉菊川 000 000 012
 4―3 まさに想定通りの勝ちであった。わたしは密かに念じた。「こんなチームが優勝してはいけない……」
 迎えた決勝戦。8回表までのスコアである。
  広 陵 020 000 20
  佐賀北 000 000 0
 観客のだれもが広陵の圧倒的な勝利を信じた。「なんだよー、これで決まりか。おもしろくもない」独り言(ゴ)ちて、わたしはラジオのスイッチを切った。だから、8回裏のドラマを聴き逃した。口惜しい限りだが、願いは叶った。8回裏からは2イニング、こうなった。
  広 陵   0
  佐賀北 5 ×
 人生をスポーツに擬して教訓を酌み取るとすれば、儘ならぬという訓(オシエ)こそ一等ではないか。高校野球が計算尽で勝てるなら、来年からは止めにしたほうがいい。そんなものはなんの役にも立たない。儘ならぬからこそ値打ちがあるのだ。一寸先は闇であり、曙光でもある。だから油断は禁物、だから諦めてはならない。スイッチを切った短慮には冷汗三斗だが、佐賀北のフツーの生徒たちに満腔の祝意を送りたい。
 もう一つ。いつものことながら、気になる言葉遣い。高校野球の監督がよく選手を「子どもたち」と言う。これはおかしい。高校野球の監督と、高校生の選手は親子ではないはずだ。ましてや監督の専有物でもない。相手は義務教育を終えた高校生だ。昨年来の高校野球を取り巻く問題の根には、監督の了簡違いがあるに相違ない。傀儡のごとくに差配する傲慢が監督にある限り、問題は断ち切れまい。
 ところで、佐賀北の百崎 敏克監督。野球部員のことを常に「生徒」と呼ぶそうだ。

■ 安倍改造内閣が発足  
経済成長路線に批判的だった与謝野薫・元政調会長を官房長官、増田寛也・前岩手県知事を総務相に起用。首相に批判的な舛添要一・参院政審会長も厚労相に任命した。(27日)
  ―― 前項ではないが、スコアボードを追いかけるように目まぐるしく様子が変わる。政務官を含め発足わずか5日にして、10人からカネの不正と手落ちが発覚した。
 ついに昨日(9月3日)は遠藤農水相が辞任。在任8日間だった。安倍内閣で5人目の大臣辞任である。前代未聞か。与謝野官房長官が語った。「森羅万象が判るわけではない」ごもっともだ。蓋し、名言である。「身体検査」の不徹底で片付けられるほど事態は軽くない。以前にも指摘したが、真因は将たる者の薄運、これに尽きる。わたしはむしろ同情すら禁じ得ない。
 序盤の敵失に民主党は色めき立つが、彼らとて偉そうなことはいえない。この4年間、同党の刑事事件逮捕者は20人を超える。衆院議員2人、地方議員10人、秘書12人。容疑は給与のピンはね、学歴詐称、買収、覚醒剤所持、痴漢、強姦、傷害など、およそ天下の公党とは言い難い。組関係でもここまではいかない。
 それはさておき、農水は鬼門だ。鬼は「補助金」をめぐる構造に潜む。農水に限ったことではない。建設も福祉も、さまざまな分野を補助金の網が覆う。右肩上がりの時代から引きずる負の遺産だ。今にして、「改革」を主導した『ライオンヘアー』が懐かしい。
 多難な船出。ガタのきた船体に虫食いの帆。はたして風は吹くか。

(朝日新聞に掲載される「(先)月の出来事」のうち、いくつかを取り上げた。見出しとまとめはそのまま引用した。 ―― 以下は欠片)□


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