博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『風雲戦国之列国』

2020年02月16日 | 中国歴史ドラマ
テンセントオリジナル企画『風雲戦国之列国』を鑑賞。1話1時間強の尺で、1話につき戦国七雄を1カ国ずつ取り上げていくという作品です。歴史ドラマというより歴史ドキュメンタリーの再現ドラマをつなぎ合わせたような作品ですが(戦争の場面をナレーションだけで済ませたりして室内劇中心の展開にしているのがそれっぽい)、以下に触れるようにちょいちょいお馴染みの俳優さんが出てきます。


第1話燕国篇「燕過無痕」。七雄の中で最も古い歴史を持つ燕国は、燕王噲から子之への禅譲が引き金となり、斉国に国都を蹂躙される。「隗より始めよ」で国の立て直しを図る燕の昭王を演じるのは、『琅琊榜』の言侯役が印象的な王頸松。復讐のため、蘇秦をスパイとして斉国に送り込むという話は『戦国縦横家書』からの分析に基づいたものになっています。最後のあたりで荊軻も登場。


第2話趙国篇「烈乱之国」。趙人の性格は「任性而暴烈」ってバーサーカーかと言いたくなりますw 今回のキーマン武霊王を演じるのは『慶余年』にも出演した于栄光。その後は長平の戦いでの大敗を経て李牧が粛清されるあたりまで触れられます。長平の戦いは結果だけナレーションで伝えるという演出ですが、まあそういうドラマだと思って見てください……

第3話楚国篇「貴族之殤」。呉起の粛清に示されるように、最後まで抵抗勢力としての貴族を排除できなかった楚国。先君の葬儀の場でおもむろに弩を取り出して呉起を射殺しようとする楚の高位高官が描かれますが、あの話は別に至近距離から弩で射殺しようとしたわけではないと思うんですが…… 中盤以降はお馴染みの懐王と屈原も登場(例によって水死する場面はあっさりナレーションで済まされます)。終盤では春申君が李園の妹との間の子を楚王にしようとした話も割と尺がを割かれています。ラスト付近でみんな大好き項燕も登場。

第4話韓国篇「権術的代価」。六国の中で最初に滅ぼされる韓。もともと実直な性格だった韓人は、申不害以後権謀術数を弄するようになり、術治に服するようになる。しかしそれが滅亡への道につながっていた……と、権謀術数に対して否定的な評価を下しています。まあぶっちゃけ『韓非子』に載ってるようなことを本当にやられてもドン引きなんですが。あとは「趙氏孤児」の話も趙国篇ではなくこちらで出てきます。終盤で韓非や鄭国渠の鄭国のほか、張良の父親張平も登場。

第5話魏国篇「士人的魔呪」。もちろん三国の魏じゃありませんw 戦国最初の覇主となり、初代の文侯は孔子の弟子子夏に師事。しかしその後は能力があっても卑賤な士人を冷遇し、王族など身内を重用し、没落していきます。呉起、商鞅、孫臏、范雎と逃亡した士人が他国で大物になっていくさまは、球団を放出された選手が他球団で活躍する阪神タイガースを見ているようです……エンタメ作品で前404年の三晋と斉の長城の戦いに触れてくるのはなかなか珍しい。これが翌年の周王朝による三晋の諸侯承認に結びいたというのは楊寛の説に拠るものでしょうか。


第6話斉国篇「靖綏之謎」。七雄の中で商工業が最も栄えた斉国。田氏のおこりというこで陳から斉の桓公のもとに公子完が亡命してきたところから話が始まります。今回のキーマン斉の湣王は、『大秦帝国』では魏の恵王を演じていた李立群。どっちも似たような演技です (^_^;) あとは孟嘗君やら孟子やら、斉と言えば稷下の学ということで学長を務めた荀子も出てきます。カメオ出演程度にしか女性が登場しない作品ですが、最後の斉王建の母にあたる君王后は、襄王との出会いから比較的丁寧に描かれます。


『風雲戦国之列国』大結局「為什麼是秦国」。今回のキーマン、戦国の阪神タイガースもとい魏から移籍してきた商鞅を演じるは、『大秦帝国』では張儀を演じていた喩恩泰。『ミーユエ伝』などでお馴染み羋八子も登場します。中国で最初に太后と称した人物ということですが…… その後は呂不韋やら嫪毐やらとお馴染みの話が続き、最後はもちろん始皇帝による統一で締めです。「為什麼是秦国」なのかはこれまでの回で既に語られているというか、逆に今回だけ見てもよくわからないかもしれません…… 結局は自国に多々問題があっても他国がもっとアレなら総合力で勝てるというプロ野球みたいな話になるのかもしれません。

ということでさほど予算を掛けていない割には戦国時代の主要なエピソードや人物を(あるいはそれ以前の時代の話も)手堅く押さえてテーマ別にうまく構成してあるので、Eテレの海外ドキュメンタリー枠かネット配信かどういう形であれ日本語版を出してもいい作品なんではないかと思います。考証面も一部「あれ?」と思うところもありますが(上記の呉起が射殺される場面とか、蘇秦の活躍した年代が新資料に拠っているのに対し、張儀の年代がそれと帳尻が合ってない点など)、日本の大河ドラマなんかと比べてもまあ許容範囲かなと。機械仕掛けのミニチュアで七カ国の都城を巡っていくOPは、七王国を舞台とする『ゲーム・オブ・スローンズ』へのオマージュなのかなと。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする