我が家から歩いてほんの10分足らずの所には日本の原風景里山が点在しています。春には”山笑い”、一本の桜の大木はそれは美しい。富士山の雪解け水のS川の近辺ではかつてはクレソンが栽培され、かわせみは今でも飛来する。そこに美味しい手打ち蕎麦屋があると聞いて友達と行って見た。これは蕎麦定食。冷たい掛け蕎麦。お汁が濃くて体には良くないし、お蕎麦の味がわからないのは残念。蕎麦を殻ごと油で揚げてくるみと一緒に味噌で包んで焼いた一品と玉子焼き、デザートです。殻ごと揚げた蕎麦がプチプチして、日本酒の好きな人は肴としてこれはいい。まあ田舎のお蕎麦屋さん…素朴で一生懸命さが伝わり応援したい。
N大の日欧比較文化の講義で吉本ばななの「ムーンライト・シャドウ」は恋愛小説か?否か?というデイベートの時間があった。勉強した「トリスタンとイズー」や「ロミオとジュリエット」「タイタニック」などと比較して「ムーンライト・シャドウ」は?と言う事である。学生たちはディベートのテクニックを会得していて、結構活発に意見交換しているのを目の当たりにして私はただひたすら感心してしまった。学問とはこう言うものなのですね。勿論T先生の指導が立派。私は「ムーンライト・シャドウ」も「キッチン」も亡くなった者からの再生と考える。自分の来し方を思うと納得できるのです。若い時「キッチン」を読み変なの…で終わってしまったが、歳を重ねた今確実に理解でき癒されたのです。「ムーンライト・シャドウ」は吉本ばななのN大の卒論で、藝術学部長賞を受けたそうです。若いのにこれだけ深い内面を描くことが出来る…やはり才能でしょうか。
N大の日欧比較文化のメインの教材は森鴎外の「舞姫」であった。「トリスタンとイズー」や「ロミオとジュリエット」「タイタニック」などと比較して「舞姫」を論じる。「舞姫」は13年前、夫とベルリンを訪ねる時、”ウンター・デン・リンデン”(菩提樹の木の下)に憧れて読んでいた。森鴎外の私小説だとばかり思っていたが、先生の解説から主人公太田豊太郎は三人もの候補がいて特定はされないと言う。エリスは後にドイツから林太郎(鴎外)を追って来日し、森家で追い払ってしまう事実がある。出世かエリスか思い悩んだ豊太郎、帰りの船上で回想し未練や心残りから鎮魂の意図で「舞姫」を書いたが、最後は「彼を憎むこころ今日まで残れりけり」で終わっているところが「舞姫」を読み解く鍵と言う。彼とは天方伯の随行員としてベルリンへやって来た相沢謙吉で何くれとなく豊太郎を助け、ついにはエリスと離別させ豊太郎を日本へ帰す。先生の解説は解り易くかつ深い。学問は難しい。(映画”舞姫”を先生は学生に見せたいが太田豊太郎が”郷ひろみ”なので止めたとおっしゃった。解る、解る!舞姫の真意が伝わらない…と、かつて映画を観た私は思った)。
娘たちがボランティアで面倒をみている交配犬シリウスに再会した。尻尾を振って顔をなめようと擦り寄って歓迎してくれたが、相変わらずワンとも言わない。5月の初対面の時は文化の違うイギリスからはるばるやって来て、可哀想が先にたってしまったが、しっかり娘一家の一員になっていて安心した。朝晩の散歩を港の見える丘公園まで一緒にしたが足は速く私は遅れがち、5mほど後ろを歩いていると、数分毎にシリウスは立ち止まって後ろを振り返って私を案じている様子。流石、血統の立派な犬だと感心しました。生まれてもう既に一年半、犬年齢は20歳だそうです。先日は初めてお役目を果たしに盲導犬協会へ出かけ、それは冷凍保存されたと言う。
ミュジアム・ショップで自分へのお土産を買った。ルノワールの”ジャンヌ・サマリーの肖像”の小物を2,3買い、クスミという紅茶を買ってみた。フランスの紅茶はマリアージュが一番で次にフォションと思っていたがこの”クスミ”が最高級と知った。調べてみたら帝政ロシア時代(1867年)サンクトぺテルブルグで皇帝御用達の茶商だったクスミチョフが、1917年ロシア革命により貴族的なお茶文化の廃退と共にパリへ亡命し、香りを楽しむロシア風紅茶として広めたそうです。他の香りを加えた(ベリーなど)紅茶は好きではないので、”夜の紅茶50番”を買った。「古きよき時代の郷愁を誘う」とどこかに書いてあったが、”夜の紅茶50番”はそんな気がした。プーシキン美術館のフランス絵画300年展に相応しいクスミ紅茶、的を得ている買い物で嬉しかった。
ハンガリー産鴨のロティ赤ワインとオレンジのソース。この鴨が美味しかった。お肉の端の脂身が嫌だと思いながら、口に入れたら甘い旨味が口に広がり、脂をいとおしく味って食べた…なんて初めて。鴨の脂は牛と違ってしつこくなくて丁度よい。お肉は勿論軟らかいミディアムレア、微発泡の赤ワインがとても良く合って、生き返った感じ、嫌な事もしばし忘れた。ああ~美味しかった。微発泡の赤ワインは初めて。ちょっと舌をくすぐっていいものですね。誰かさんごめんなさいそして有難う。
面倒なので美術館内のレストランでランチを採った。一応フランス料理のコースです。アミューズはヴィシソワーズとコンソメジュレのソワレドパリ風。フランス絵画300年に因んでのメニュウらしい。二層仕立てで”パリの夕暮れ風”なんて素敵。洗練された優しい美味しさ…と言いましょうか。
本場モスクワのプーシキン美術館へは2010年に行ったはずなのにあまり覚えていない。超スピードの見学だった。そこでゆっくり観たい…と言っても数は少ないがそれでも66点もの、特に日本人好みのものを集めたらしいフランス絵画展が横浜美術館で開催されている。プーシン美術館の所蔵品は歴代の皇帝や貴族、富豪のコレクターが集めた物だと言う。彼等は当時フランスに憧れを抱いていて常に眼はフランスに向けていたそうです。やはりこの美術展の目玉はルノワールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」でしょう。大きい絵ではないが彼女は、ルノワールが無名時代(1877年)コメディ・フランセーズの新進女優でルノワールのお気に入りのモデルだったそうです。若く愛らしい女優を柔らかな色彩で包み、ルノワールの優しさと愛情を感ずる一枚です。他にゴッホ、セザンヌ、ゴーギャン、モネ、マネ、ドガ、ピカソ、シャガールなどお馴染みの作品があった。ゴッホの「医師レーの肖像」はゴッホが耳を切断した時、治療に当たった先生にお礼に贈ったそうですが、レー先生は気に入らなかった。やはり印象派の絵画は理解し易く癒されます。