第二次世界大戦中のロンドン郊外で障碍を持ったスズメの雛を拾い、7年あまり子供のように育て、最後を看とった老婦人の記録です。原題は「Sold for Farthing」文藝春秋社刊。自然淘汰で巣から親鳥に蹴落とされた雛に偶然出会った。足と羽に障碍がある。鳥類に多く見られる学習行動、”刷り込み”で老婦人を親と思い、仲間と思い、その温かい交流が描かれています。すべての獣や鳥たちには知性が潜んでいて、人間から与えられる愛情や友情の絆の強さによって、差はあるにせよそれを伸ばしていけると書いています。スズメの老衰と戦う姿は人間と同じで、日常生活に次第に困難を生じ、婦人が手伝わなければならなかった事など、彼女の深い愛情と観察の鋭さに感心します。著者クレア・キップスはプロのピアニストですが、文学にも造詣が深く、引き合いにいろいろな文学の一遍を紹介している事などとても興味深く読んだ。驚いた事に、クレア・キップスが住んでいた、そして雛を拾ったロンドン郊外が何とケント州ブロムりーなのです。ブロムリーはロンドンから電車で30分、一昨年、娘一家が住んでいた所です。緑が多く森もあり、”ナイチンゲール・レーン”と言う通りもあり、ブラックバードやロビン、インコの群れなどたくさんの鳥の鳴き声が響き、楽園の趣でした。この地でこのような物語があったとは、ノスタルジーを感じ胸が痛くなります。
幕末・明治の金属工芸の名品展です。刀の鍔や花瓶、飾り器、自在置物の金工細工で、その細密な技巧は息を呑むほどです。彼等の追及したリアリズムは蝉、蟷螂、鈴虫、蜻蛉など小さな昆虫にみられる細緻な技巧です。鋭く鎌を振り上げ獲物に襲い掛かる瞬間を現した蟷螂の置物は品格があり見事です。自在置物と言って鉄銅などの金属で動物の体躯の動きを実際と同じように表現できるように龍や蛇、海老が作られている物もあった。ビデオでその動きを見たがスムースで驚きました。多くは甲冑師の鉄の打ち出しの技術によるものだそうです。幕藩体制の崩壊で後ろ盾を失った職人が彼等の技を美術に昇華させた…素晴らしい事です。
垣添忠生著、新潮社発刊「妻を看取る日」を読んだ。”国立がんセンター名誉総裁の喪失と再生の記録”とサブタイトルがついています。雑誌、文藝春秋で12歳も年上の奥様をがんで亡くされたとちらっと見て、覗き見したくなり読んでみた。著者の生い立ちが長くて本の半分を占め飽きてしまう。12歳年上の奥様との出会いから闘病生活をもっと深く突いて欲しかった。そこで初めて彼の”グリーフ”が如何に深かったかが理解できるのに…。最近この”グリーフ・ケア”ががんで家族を失った人を癒す学問として注目されている分野だそうです。しかし「がん」だけではありませんッと言いたい。突然最愛の人を失ったら原因が何であろうが同じだと思う。
キャベツの美味しい時期です。トマト味のロール・キャベツを作ってみた。一見なんら変わらぬ普通のロール・キャベツですが、もう凄く、凄く美味しく出来てしまって…驚いた。中身の挽肉にパンのくずとかパン粉を湿らせ入れますよね。これをオーストリアから買ってきた粉々に割れてしまったプレッツェルで代用しました。プレッツェルの生地その物の美味しさと、入っているキャラウェイシードの香りが微かに挽肉に移り、まあ中身の美味しい事!挽肉の独特のにおいが全くない。スープにはザルツブルグのピンクの塩。甘さがあり、これがまた良い。スパイスはローリエとシナモン・スティック。自画自賛…すみません。