旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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あなたの座右の銘は?

2013-07-10 01:16:00 | ノンジャンル
 “親になてぃ親ぬ 恩知ゆんてぃやい 昔云言葉や 今どぅ知ゆる
  〈うやになてぃ うやぬ うんしゆんてぃやい んかし いくとぅばや なまどぅ しゆる
 琉歌の中でも、最も一般的に知られる教訓歌のひとつだ。
 親がかりのころは(親の恩)なぞ考えてもみなかったことだが、自分が結婚をして、子を持つようになってはじめて、親の恩を実感したと詠んでいる。そのころには親はすでにいない。「孝行をしたいときには親はなし」。悟るのが遅かったかと多少、後悔の念も読み取れる。
 筆者は、父親との縁が薄く、13歳で死別している。母親は89歳の長寿を全うしたが、その母親に孝行をした覚えがまったくない。いまごろになって、ちょいと心残りがあり、冒頭の琉歌を思い出したしだい。
 母親が何かの拍子に口にしていた古諺があったのも、ついでに思い出した。
 「十ぬ指や 同丈ぇ無んトゥぬイービや ゐんたけー ねーん」。
 これである。
 親指〈ウフイービ〉、人差し指〈サシイービ〉、中指〈ナカイービ〉、薬指〈サラシイービ。もしくはナラシイービ〉、小指〈イービングァー〉。どの指を見ても長さが異なる。それと同じように人間も、人によって姿形や個性があり、生き方も異なっている。したがって、ひとそれぞれ価値観が異なることは理の当然。であるからにして、自分の価値観のみをよしとして、他人のそれを無視したり、否定してはならないと教訓している。
 母親がこの古諺を筆者に向かって言ったのは当時、筆者は「親の意見となすびの花は千にひとつのあだもなし」を知らず、勝手気ままに行動をしていたのだろう。
 古諺の言い回しは、所によって異なるようで、八重山地方には同義の古諺が残っている。いわく、
 「同ぬ人からん 同ぬ人ぉ 生るぬゐぬピトゥからん ゐぬピトゥぉ まらぬ=同じ人からでも同じ人は生まれない」。
 同じふた親からでも、同じ子は生まれない。それぞれ異なる容貌、性格を持っているとしている。そうでありながらも親は、平等に慈しみ、愛情をもって育てる・・・・。親不孝者は、いまからでも心を入れ替えなければなるまい。いやいや、これは筆者の独白的自問自答。母親の存命中に(座右の銘)にすべきであった。

 指になぞらえた古諺をいまひとつ。
 「指や内んかいどぅ 曲がゐるイービや うちんかいどぅ まがゐる」。
 直訳すれば「指は内にこそ曲がる」である。指を折る場合、誰しも手の平の方へ折る。手の甲の方へ指を折る器用な人はいまい。この古諺が教えるものの道理であろう。しかし、主旨は別のところにある。
 内(うち)は家(うち)を意味している。肉親と解してもよい。他人との交わりは、どんなに親友、刎頸の友を確認仕合っていても、一生それが全うされる例は少ない。他人が立ち入ってはならない事柄もあるからだ。人間、、いざという時、親身になって力をかしてくれるのは親、兄弟であることを指の屈伸に譬えている。血の繋がりの縁を表現しているが、そこいらから感受できることは、昔びとはなんとボキャブラリーが豊富であることか。しかも、実生活のそこいらにある言葉をサラリと使って訓示に仕立てる。いやはや、頭が下がる。

 親子については、世界中に金言がある。
 北村孝一編「世界のことわざ辞典=東京堂出版」(親子と兄弟)の項目にこうある。
 「父親は10人の子を養っても、10人の子は父親1人養えない」。
 高齢化社会の中にいる高齢者にとっては、ゾッとする諺が。辞典にはイギリス、ドイツ、デンマーク、ポーランドなどの諺とあるが、そう遠い国の言葉ではあるまい。
 父親は、たとえ子供が10人いても何とか養い育てていくが、子供の方は10人いても、父親の面倒を十分に見ないことが多い。親の子に対する愛情は確かなものだが、子供の方はとかく「親の心を知らず、年寄りを大切にしない」ことをたとえていう諺だそうな子は子で、自分の子を育てるのに懸命なあまり、そうなるのだろうし、このことはエンドレスに続く観念のように思える。
 他にも、
 「母親ひとりは、7人の子が母親を養うよりも簡単に7人の子を育てる」。
 「母親の胸は9人の子を抱けるが、9人の子たちは母親1人養えない」。
 「1人の親は10人の子を育てられるが、10人の子は、1人の親を安らかにできない」。
 などがあり、子を思う親の気持ちは世界中変わらないものがあると言えよう。

 さて。
 表題を〔あなたの座右の銘は?〕にしたが、筆者はいかなる言葉をそれにして生きてきたのだろう。また、生きていくのだろう。いい年齢になると、世のしがらみにもまれ、ゆられ、流されて、それすら見失っている。さらば、暑さ寒さにも負けず〔座右の銘〕を見出して、人生を立て直してみることにする。

 ※7月中旬の催事。
  *第25回 糸満ふるさと祭り・第15回 エイサーinいとまん(糸満市)
   開催日:7月13日(土)~14日(日)
   場 所:西崎陸上競技場

  *第5回 2000円札応援祭り(那覇市)
   開催日:7月14日(日)
   場 所:パレット久茂地前広場

  *キジムナーフェスタ2013(沖縄市)
   開催日:7月20日(土)~28日(日)
   場 所:沖縄市内各会場