昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「レロレロ姫の警告」改定版(8)誕生(4)

2018-01-12 06:53:05 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 「もう、これしかないだろう。愛だ!」
 あかちゃんの名前はパパのこの一言で決まった。

 32歳を過ぎて初めて授かった待望のあかちゃんは、パパにとって「愛こそ命」だった。
 生まれた病院を2週間ほどで退院して自宅でしばらくパパとママと一緒に過ごした。
 しかし、しょっちゅう熱を出すし、夜は無呼吸になってチアノーゼになるし、危険な状態も度々だったので、院長先生から紹介された小児科専門病院に入院することになった。
 ここでは経管栄養のための管だけではなく、頭から検査のための線がいっぱい取り付けられ、愛は恐怖で泣きづめだった。
 

 ベッドから転げ落ちる恐れがあるということで、檻のような柵の中に入れられていた。
 お見舞いに行ったおじいさんとおばあさんが思わず涙ぐんでしまうほどだった。
 パパやママが愛をすぐこの病院に入院させなかったのはこんなことになるのを恐れていたのかもしれない。
 
 最初のうちはママが会社を休んで付き添う必要があった。

 3か月ほど経過して状態が安定したので一度自宅に戻ったことがあった。
「自宅にいる間だって、経管栄養のためのリンゲル装置や、無呼吸対策の酸素ボンベ付きだもんね・・・。ひと晩でまた病院に戻っちゃったわよ」
 お見舞いに行ってきたおばあさんがおじいさんに言った。

「プチあーちゃんはどうしているかしら? 今日は時間が出来たからおじいさんも一緒に病院に行かない?」
 おばあさんはテレビのカワイイあかちゃんに目をとめて、きょうもおじいさんに声をかけた。
「おととい行ったばかりじゃないか・・・」
 カワイイ赤ちゃんばかりでなく、おばあさんは何にでも愛に結びつけようとする。
「ねえ、この仏様の横顔を見てごらん! 何か愛の横顔に似ていると思わない?」
 先日も奈良のお寺巡りのテレビ番組で、薬師寺金堂の薬師如来三像の一つ、月光菩薩に目をとめておばあさんがおじいさんの肩をたたいた。

 
「そう言えば、ふっくらとした頬がそっくりだな・・・。愛は仏様の生まれ変わりかもしれんぞ・・・」
 おじいさんも思わずうなずいてしまった。
 以前に比べればこのところふっくらとしてきた愛の写真を見ながら、ママはおばあさんとふたりで言い合っている。
「かわいいね。他の人が見てもカワイイヨね。親ばかじゃないよね・・・」
    
 ─続く─







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