昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

悪いことから全てが始まった(43)貿易会社(1)

2013-11-16 05:46:21 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「タバコのタ、日本のニ、千鳥のチ! かたかなでダニチです」
 広い営業部にひときわ大きく明瞭で流暢な日本語がひびき渡る。
 
 目鼻立ちのはっきりした、彫の深い明らかに外国人の男から発せられている。
  

 一昨日、ボクはこの会社を受験した。
 信濃町駅から四谷三丁目の方向歩いて5分ほどにある細長い7階建ての白いビルが、佐川さんから紹介された会社だった。
 総務部の課長なる男から指示されて、応接間でただひとり筆記試験を受けた。
 英文の問題に頭を抱えていたら、その課長が入ってきて「これ見ていいから」と言って、英和と和英の辞典を差し入れてくれた。
 そして昨日無事合格したことを伝えられ、今日初出社した。
 廣瀬という温和な顔をした、恐らく60歳を超えていると思われる総務課長から、二階の営業部へ案内された。
「まだ、所属は決まっていないけれど、恐らく営業部へ配属されるはずだから、吉原専務から呼び出しがあるまでここに座っていなさい」
 そう言われて、ボクは奥から木材部、金属鉱産部、物資部と並ぶ営業部の一番端に位置する機械部の空いている席に座らされた。

「これでも見ておきなさい」
 廣瀬課長が置いていった会社の経歴書をパラパラとめくってみた。
 冒頭に、妹節子の旦那のお父さん佐川さんの古くからの友人だという狭間大二郎取締役社長を筆頭に吉原専務以下役員が並んでいる。
 事業の目的は下記物品の輸出入及び販売業とあるが、羅列された物品が半端でない。
 
 木材、石炭、石油から始まって、船舶、車輛、各種プラントなど、など。
 まるで大商社ではないか。
 従業員は96名とある。
 こんな規模でこれだけのものを扱えるのだろうか?
 読み進めるうちにこんな記述があった。
 <創立者狭間大二郎はかねてから膨大な領域と人口及び資源を擁し、且つ隣接したソ連邦との貿易に多大の関心を持ち・・・>
 なるほど!ソ連貿易専門商社なんだ。

「キミ! 機械3課に配属になったのか?」
 とつぜん、あの顔も声もメリハリのある外人から声をかけてきた。
「いや、まだです。後で吉原専務から指示があるみたいですが・・・」
 ボクは緊張して課長席から近づいてきたその男を眺めた。

 ─続く─

 昨日、日本のソフトパワー<初音ミク>がフランスを魅了したと書いたが、ロシアの若者の中でも日本のコスプレブームが起きているとNHKテレビが報じていた。
 
 そしてこれをきっかけに日本の文化、歴史に関心を持つ若者が急激に増えているそうだ。


 


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