昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

エッセイ(22)黒人大統領誕生

2008-11-08 08:21:48 | エッセイ
 アメリカで初の黒人大統領が誕生した。
 多民族国家だからもっと早く黒人が大統領になってもよさそうだったが、なかなかそうはいかない情況が存在していた。
 実質的には白人大統領の下、アメリカは白人に牛耳られていた。
 黒人が大統領に選ばれたら暗殺されるのではなどという不穏なうわさも飛ぶくらいだ。
 人種差別に関する感覚が理屈を越えて存在することをぼくは実感したことがある。
 
 仕事で社長とニューヨークのバスに乗った時のことだ。
 まだ、ぼくは若かった。

 バス始発の停留所は大きなビルの地下にあり、薄暗く、十台以上のバスが行き先別に陰気に配置されていた。
 発車間もないバスのステップの前で、運転手だろうか、黒人の大男が三人、ぼそぼそと何事かしゃべっている。
 客にスペースを作ってやろうなどというなどという配慮は微塵もない。
 彼らの間をすり抜けてバスに乗り込む時、言い知れぬ圧迫感と恐怖感に襲われた。
 そそくさと社長を先導して一番奥のシートに座ったが、あの黒人たちの暗くて陰湿なワーキングエリアに誘い込まれたような恐れを感じた。
 先に予測できないようなことが待ち受けているのではという不安が襲った。
 
 いくつかの先のバスストップでバスはしばらく停車した。
 バスの運転手は何も告げないまま黙って降りてどこかへ行ってしまった。
 静かな田舎町の商店街だ。
 すぐ前に小奇麗な陶器類をショーウインドーに飾った店がある。
 気づかない間に、社長がバスを降りてショーウインドーを眺めている。
 いつもの好奇心旺盛な社長の唐突病が始まった。
 やばいなと思った瞬間、社長は店の中に入って行った。
 運転手は戻ってきて何の合図もなく車を発車させた。
 ぼくはびっくりして大声を上げた。
「ストップ!ストップ!」
 後ろから社長が走ってくるのが見える。
 運転手はしぶしぶという感じでバスを止めた。
「ソーリー、ソーリー」と言いながら社長は乗り込んできた
 ぼくは、発車する前に確認しろよ、と言いたかったが、運転手は・・・お前らの責任だろうが・・・という冷たい目でぼくらを眺めた。

 それ以来、ぼくは黒人に対して恐怖感を抱くようになった。

 今回、アメリカ国民の直接選挙によって、圧勝で、アメリカ初の黒人大統領が誕生した。
 黒人は20%に満たないが、国民自身が自らの代表として黒人を選んだのだ。
 これはある意味、白人社会の中で、感情的な人種の壁を打ち破った画期的なことといえる。
 イラク戦争、金融危機などでアメリカの世界における地位は揺らいでいるとはいえ、まだ世界をリードする力を有している。
 世界平和を考える時、人種、宗教などの超えがたい壁がある。
 少なくとも世界をリードするアメリカを引っ張る大統領に、黒人がなったということは、人種の壁が破られたという点で、ベルリンの壁が壊された時よりさらに評価されるべき事件と言えるかもしれない。

 YES,WE CAN.
 アメリカだけではなく、世界がCHANGEする可能性がある。
 

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