昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

三鷹通信(83)読書ミーティング(6)

2014-03-17 09:46:10 | 三鷹通信
  現役編集者が主宰する今年2回目の読書ミーティングに参加した。
 今回、「こんな本に出会えてよかった」と最初に推薦されたのは、乗り物大好きの女性からの<大砲とスタンプ>。
 
 作者、速水螺旋人によるこの会初めてのコミックだった。
 共和国(トルコがモデル?)と交戦中の大公国(ロシアがモデル?)には、陸海空の三軍の他に、補給・輸送を任務とする兵站軍がある。
 そこの将兵は、命の危険が少なく、デスクワークが多いことから<紙の兵隊>と蔑まれていた。
 そこに赴任した女の子の少尉が活躍する物語だ。
 几帳面な性格で、各種文書を重視し、ことあるごとに「責任問題」を口にする。
 気が動転したときは報告書を作ることで落ち着くという女の子だ。
 推薦者によると、ミリタリーメカに長じた細かな絵に魅かれたというが、主人公が懐中汁粉が大好きだったり、<イタチもどき・スタンプ>というペットがいたりと、軍隊なのに血なまぐさい場面ではない、組織内の人間関係描写に、女の子でも魅かれるのかもしれない。

 *10万部も売れているそうだ。ともかく最近のマンガにはとんとうとい小生も読んでみたくなった。

 続いて小生の推薦による、開高健の<夏の闇>。
 
 なにしろ、田辺聖子が戦後日本文学の三筆(安岡章太郎、井伏鱒二)と評価し、かの司馬遼太郎が画期的な戦後日本文学の金字塔と評した開高健の代表作である。
 彼の芥川受賞作<裸の王様>にはインパクトを覚えなかった小生も、ベトナム戦争における体験を生々しく描いた<輝ける闇>と、ベトナムから帰った後、自己を見失った彼が、ただひたすら眠り、貪欲に食い、10年ぶりに会った女と繰り返し性に溺れる日々を描いた<夏の闇>の饒舌な表現力にはただただ括目するのみだった。
 下記にその一幕を。
 ふいに女が体をひいた。腹と腕から何かを剥がれたようだった。私は軽くなり、シーツのなかに空洞ができた。ふりかえると小さな灯りのなかでたちあがる広い腰と白い臀が見え、女はゆくりとした足どりで闇のなかに入っていった。どこかでかすかな金属の軋る音がし、爽やかな微風が騒音といっしょに流れこんできて、あちらこちらにあざやかな縞をつくった。しかし、女が体をひいた瞬間に発生したざわめく林のようなものは見る見る部屋いっぱいにひろがり、風に消されなかった。女はそのなかを酒瓶をさげてゆっくりとよこぎってくると、私のよこにたたずみ、からっぽのグラスにぶどう酒をついだ。
「またあそこへいくつもりね」
「・・・・・」
「私から逃げたいことがひとつね」
「・・・・・」
「いきいきしてたわ」
「・・・・・」
 ひっそりとつぶやいたが、えぐりたてるような痛烈さがあった。

 
 次の推薦本は、お役人を経験した方から東京電力福島原子力発電所事故調査委員会による<国会事故調報告書>。
 
 異色である。
 原発事故後、憲政史上初めて、国会に、政府からも事業者からも独立した民間人による事故調査委員会が設置された。2012年7月5日に衆参両院議長に提出された事故調査報告書の本編をノーカットで刊行。
 事故の根源的原因を3.11以前の東電や規制当局の不作為による「人災」と断定。
 事実の積み重ねによって、規制する側が規制される側の虜になっていたことを明らかになるなど、国内外に強い衝撃をもたらした歴史に残る調査報告書。

 *原発は人災、マスコミ発表はザル、利益と安全は天秤に掛けられた。
 *国会のやりとりは役人が台本を作る(質問する野党も、答える与党も)
 *随所に過激な表現がある。
 *ちなみに外国人が大量に買って行ったという。

 続いて、講師から<ロングセラー>と<ベストセラー>について。
 前回の夏目漱石<こころ>に次いでロングセラーの新潮文庫歴代累計第2位は太宰治の<人間失格>。現在650万部、20世紀までは1位だったそうだ。
 
 女へのもてぶりがすごい主人公、太宰自身の人生を色濃く反映していると言われる。
 最近版の表紙を見ると、何故売れるかが分かるような気がする。
 未熟な若者にとって、先ずタイトルが魅惑的だ。
 ちなみに、三鷹市には彼が入水自殺した玉川上水があり、桜桃忌で有名な彼のお墓のある禅林寺がある。
  

 <ベストセラー>として渡辺和子<置かれた場所で咲きなさい>が紹介された。
 
 「謙虚に日々を大切に」
 「自分が他人にやって欲しいことを自分からやりなさい」
 「自分からほほえみかけなさい」
 「心の余裕をもちなさい」
  という内容が読む人に訴えるのは、
  2.26事件で父が殺されるところを目の当たりにし、洗礼、苦学、留学、36歳の若さ で学長就任の苦労、うつ病というキャリアが説得力となっているのでは。
 
 2013年販売ランキング総合10位、現在も売れ続け、100万部超の86歳のシスターが得生き方指南本。

 いずれも、戦争、震災にかかわる本でした。
 現在小生がもっとも関心を思っていることは、これからの日本、これからの世界についてです。
 今、ひとから紹介いただいて手もとにあるのは<里山資本主義>、そして<永続敗戦論>です。
  
 他にもご紹介いただければ幸いです。