ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

笑いを忘れたカナリアは・・・二兎社公演『ザ・空気』

2017-03-04 08:43:22 | 劇評

 客席の反応は上々だ、熱狂的な拍手にカーテンコール3回、一部スタンディングオベーションも。劇のタイトルからして、今時ものだと判断して見に来た人が多かったのだろう、入りも前2回、『鴎外の怪談』、『書く女』よりも数段良かった。永井愛さんの年来のファンとしてはとても嬉しい。

 が、だ。立ち合いからいなされた。これ違うよ、わかるけど違う。いやいや、いなしは当たらない。真向勝負だ。一気の出足、体当たり、がむしゃらのがぶり寄り。野球なら、初球からラストピッチまで、全球160キロの直球で押し切った試合て言うか。

 話は、高市早苗総務大臣のあの発言だ。公正を害する放送に対しては、政府が電波利用を停止できるってテレビメディアへの恫喝。あるテレビ局のニュース番組、例えば報道ステーションとかニュースZEROみたいな、そこでこの政府の介入を正面から批判的に取り上げる特集を流そうとする。次から次と突き出される横槍、押し付け。必死に抵抗する現場の編集長、キャスター、ディレクター、も次第に追い詰められ、ついには換骨奪胎された無残な内容となって放映されてしまう。そう、昨年、衝撃を与えたNHK「クローズアップ現代」の国谷裕子さん降ろしなど一連の政府圧力疑惑。それを如実な形で切り取ったのが今回の舞台だ。

  時代がどんどん危うい方向に進んでいるって永井さんの危機意識、それは僕も共有している。あれもこれも、ヤバ過ぎ!って毎日暗い気持ちでニュースに接してる。作家として、そんな危ない現実を書ききるのは当然の務めだと思う。誠実な永井さんとしては、ここはもう許せない、て言うより、書かずにいられないって切羽詰まって苦闘した結果なんだと思う。

 だが、怒りや主張を立て続けに投げつけられるてのは、どうにも辛かった。怒号満載、ほぼ笑いなし。剛速球をずばずばと立て続けに投げ込まれて、なすすべもなく立ち竦むバッター!そういう快刀乱麻の一方的試合も熱狂的ファンからすれば、絶賛なんだろうが、ゲームの面白さにはまったく欠ける。時には変化球を織り交ぜ、コースを外し、相手の心理を読んで投球を組み立てる。そんな、舞台を期待していた。『歌わせたい男たち』とか、『見よ、飛行機の髙く飛べるを』のような、笑いあり、青春の輝きありの技巧派永井愛を待ち望んでいたのに。

 もう、最初から、それわかる!異議なし!ってほどじゃないにしても、人間ドラマは添え物で、ひたすら永井さんの時代に対する切迫感、焦燥感が全編を覆っていた。どこに行ってしまったんだろ?あの笑いの名手は?どこへ行くのだろう?不安に震え、怒りに燃えるこの人は?熱狂的に迎えた人たちもいたから、怒りまっしぐらのこの路線もきっとありなんだろう。

 でも、僕は、辛い。僕は、寂しい。笑いがあって、グサッと一突き!も効いてくる、そう思う。深い余韻も生まれるんんだと思う。日々、嫌なニュースを突きつけられていて、さらに劇場に行ったら、ここでも、どうだ!これが現実だ!って、そりゃないよ。

 言いたいことは言っていい。でも、お客さんを楽しませた上での話し。押し付けはもっての外。こんな結びを書かなくちゃなんないなんて!大好きな永井さんの芝居に対して。

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