タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

カンガルーケアをしていますか?

2015-03-31 20:46:27 | 産科

今、入院されている赤ちゃんのお父さん方です。
おめでとうございます。安産で良かったですね。

今日は、先日の妊娠初期の両親ソフロロジー教室であった質問を繰り返してみましょう。
タマル産では、カンガルーケアをしていますか、というものです。

阪神淡路大震災の年に兵庫県に派遣されてきたのが、兵庫県との関わりの最初です。
その時は、空いているマンションが本当に無かったのですよ。
ようやく入れたマンションも、入居後に補修をしていましたからね。
そんな自宅に、勤務先の助産婦さんや婦長さんを招いて、勉強会を始めたのです。
当時はまだ助産師や師長とは言いませんでしたよ。

当時の県立塚口病院の婦長さんは、その後、県立西宮病院、県立柏原病院の婦長さんを歴任され、
今は県立こども病院で婦長さんをされている、九州出身の大きな方です。
とても意気投合して、産科学についてよく討論したものです。

その時、私が勉強会の教科書に選んだものは、英語の勉強も兼ねて
「MIDWIVES(助産師)」という米国の定期刊行物です。
日本でその雑誌を直輸入している人なんて、まだ居なかった時代にです。
今でも覚えていますが、その特集に、「カンガルーケア」が載っていたのです。

もともとのカンガルーケアは、アフリカで始まったのですよ。
日本のような先進国では、未熟児が生まれれば保育器で育てるのです。
でもアフリカに保育器なんて、そうは無いでしょう。
だから赤ちゃんを産んだばかりのお母さんが、上着の中の胸に抱っこして赤ちゃんを温めるのです。
これをカンガルーケアと呼んだのです。
何のことはない、保育器なんかに入れなくても、抱っこしていればいいということです。

逆に日本では、未熟児が生まれたら、すぐにお母さんに抱っこしてもらう間もなく、
保育器に何ヶ月も入れてしまうのです。
今は脳低温療法が流行っていますから、赤ちゃんを低体温にして、
眠らせたままにしたりしますから、お母さんが抱っこする暇も無いのです。
ようやく退院してきた頃には、お母さんは赤ちゃんのことをかわいく思えないのです。
それは初期の「刷り込み」という母子関係が確立しなかったためです。
これが虐待の始まりとなることも有ります。

そこで最近では、未熟児センターでさえ、
お母さんが面会に来られたら、敢えて授乳室で、お母さんの肌に直接赤ちゃんを抱かせ、
愛着行動を促すのですよ。
これが、その後のカンガルーケアです。
オリジナルのものからは、すっかり変遷してしまいましたね。

さらに今では、それをまねて、マタニティー雑誌なんかに載っているように、
赤ちゃんが生まれたら、すぐに授乳をしてもらったりするのでしょう?
でもね、産後すぐのお母さんは疲れて眠ってしまったりして、
赤ちゃんが窒息する事故が相次いだのですよ。
だから厚生省は産直後のうつ伏せの授乳は勧めてはいないのですよ。

結婚式の時にウィディングケーキにナイフを入れるように、
お産の時にカンガルーケアの意味を忘れた形だけの授乳は、
儀式としての意味しかないのです。
それでもしてみたいという女性には、もちろんされても構いません。

タマル産では、生まれたばかりの赤ちゃんをタオルにくるんで直ぐに、
お母さんに抱っこさせてあげています。
ついでに私が記念撮影もしてあげるのです。
フェイスブックにも載せさせていただいているのですが、
これは同意書にサインをしていただいた方だけですから、強制ではありませんからね。

お産にある種の憧れを抱いておられるかもしれませんが、
もっと野生的なものだと思うのですよ。
きれいにおめかししてするものでなく、なりふり構わず叫んでいいものです。
逆にそれが本来の美しさだと思っています。


不育症の原因を知っていますか

2015-03-30 21:25:16 | 不妊症
京都府京田辺市の桃果(ももか)ちゃん、3月4日生まれ。
「桃の節句に因んだ名前です。
母親と看護師さんに手を握ってもらい、とても安心感の有るお産でした。
分娩後のウォーターベッドの暖かさにリラックスできて良かったです。」

そうですね、たまにお産が難産で、ウォーターベッドでなく、分娩台でのお産になってしまった、
と嘆く方が居られますが、産後赤ちゃんと一緒にまたウォーターベッドに戻るのだから、
その時に余韻を楽しめばいいのですね。

さて今日は月曜日なので、不妊症、いえ不育症のお話しをいたしましょう。
不妊症でいきなり、神戸などの遠いクリニックに通われる方が居られるのですが、
まずは近くの不妊外来を受診されてもいいのではないでしょうか。

先日、神戸通いは疲れたからと、来院されたカップルが来院されました。
聞けば妊娠の中期で、子宮内胎児死亡を経験されているのです。
しかも年齢は35歳、なのに今更タイミング指導をしてほしいと言われるのです。
これのどこがいけないと思われますか?

まず、この方は不妊症ではなく、不育症なのです。
よく教科書や雑誌を見ると、ヨーロッパ基準の、3回流産するか、
10週以上なら1回の流産でも不育症と定義してあります。
ですが、最近はアメリカ基準の2回の流産か、1回の妊娠10週以上の流産を不育症と考えてください。
そうするとこの方は、1回の流産でも妊娠10週を超えていたので、不育症なのです。

この方の2つ目の誤解は、自分の年齢が35歳に達していることを、
あまり問題にされていないことにあります。
35歳以上でも普通にタイミングさえ合わせれば妊娠するものだと考えておられるのです。
ですが、35歳を過ぎれば、まったく正常の女性でも、急激に妊娠しにくくなるのです。
ですからもうタイミング治療の次の段階に進まないといけないのです。
もちろん、年齢的に流産の確率も高まります。

結論として、この方が次にしないといけないのは、
不妊症の検査に加えて、不育症の検査も追加してしないといけないのです。
その前に今日は、不育症の原因にはどんなものが有るか、ということを説明しましょう。
検査や治療は来週に回るかな。

まず、SLEなどの自己免疫疾患と呼ばれる患者さんでは、流産を繰り返すことが指摘されていました。
その理由が、抗リン脂質抗体という自己抗体が悪さをしているということが分かってきたのです。
これを抗リン脂質抗体症候群と呼ぶのです。
この抗体はさらに、抗カルジオリピン抗体のIgGとIgM、
抗カルジオリピンベータ2グライコプロテイン1複合体抗体、
ループスアンチコアグラントなどが含みます。
この辺まではよく調べると、載っているでしょう。
ですが、意外と抗リン脂質抗体症候群が、不育症全体に締める割合は低くて、
わずかその10%ほどなのです。

他には微小な血栓を作ってしまう病気が有っても、
胎盤を目詰まりさせてしまうので、これも不育症の原因になります。
こういう場合を、凝固異常とか、血栓性素因などと呼びます。
具体的には、ケガをした時に血液が固まるのを思い浮かべると、
血を固める凝固因子というものが有るのです。
その第12因子がとくに重要で、凝固異常は不育症の7.8%を占めるのです。

とりあえず2つ、覚えてもらえましたか。
続きは来週ということで。
今日は2人、赤ちゃんが生まれたので時間切れです。

妊娠中のクラミジア感染症

2015-03-27 21:03:10 | 婦人科
篠山市黒岡の翔和(しょうわ)くん、2月15日生まれ。
「元気で明るくたくましく、周りを和ませていくれるような優しい男の子になってください。
陣痛は痛かったですが、元気な産声が聞こえた時は感動でいっぱいでした。
みなさん親切で、退院するのが嫌になりそうでした。」

次回もウォーターベッドのお産で、ともアンケートに有りました。
気に入られたのですね。

さて、2013年に、全国の産科施設に対する調査が有ったのですが、
それは、妊娠中のクラミジア感染症に関する実態調査です。

今ではほとんどの施設でクラミジア抗原検査が行われています。
クラミジア検査の歴史はまだ浅く、私が研修医の頃に始まったものです。
だから今から28年ほど前のことになりましょうか。
妊婦さんに検査するようになったのも、タマル産では開業当初からでしたが、
他の施設では、全例にするようになったのは、ごく最近のことなのです。

それで1758施設からの回答では、
妊娠中のクラミジア検査の陽性率は、2.3%でした。
タマルさんでは年間200人ほどお産をされますから、年に4人程度ということになります。
意外に少ないかもしれませんね。私はもっと多いと思っていましたが。

感染を知らずにいると、赤ちゃんが結膜炎を起こしたり、肺炎になったりします。
お母さんも、次の子を妊娠しにくくなりますし、不正出血が続いたり、帯下が増えたりします。

年齢別の陽性率では、若いほど高く、
10代では15.9%、
20~24歳では7.5%、
25~29歳では2.3%、
30~34歳では1.2%、
35~39歳では0.8%、
40歳以上では2.3%という結果でした。

若い世代では蔓延しているということですね。
もしくは高学歴の女性は子を産む年齢も高いのですが、
10代で妊娠するような性的に活発な女性は、高い率で感染しているということですね。

前にもお話しましたが、不妊症の女性の多くはクラミジア検査が陽性に出ます。
あるいは過去に治療したことの有る割合がすごく高いです。
統計を取ったわけではないので確かなことは言えませんが、
全妊婦さんだけでなく、全女性が受けるた方がいい検査と言えるでしょうね。
少なくとも、月経以外に性器出血が有るようなら、是非検査を受けてください。
もちろんこちらからも勧めています。

治療のポイントは、パートナーと一緒に治療するということです。
女性だけが治療しても、パートナーから再度感染させられてしまうからです。
また男性だけ治療しても、今度は女性がうつす版です。
こういうのをピンポン感染と言うのですよ。
内科ではよく、患者さんしか治療せず、パートナーを治療しないので、
いつまで経っても治らない、という状況ですね。
医師でさえ、知識が不足しているのですね。

年に1度は、赤ちゃんを産んだあとも、婦人科の検診は受けてくださいね。

4月からの新しい子育て支援

2015-03-25 20:11:48 | つれづれ
篠山市上筱見の咲希(さき)ちゃん、2月11日生まれ。
「先のことを考え、行動できる人になってください。
スッと生まれてきてくれてホッとしました。
長い入院だったので、スタッフともたくさん話しましたね。」

妊娠生活は、楽なものとは限りませんからね。
ですが、それを乗り越えることで、また母親としての自覚が出てくるのではないでしょうか。

さて今日は、篠山市の4月からの政策を解説してみましょう。
4月号の広報、「丹波篠山」に、新しい子育て支援のことが書いてあります。
先日、市の方が来院されて説明していかれたので知ってはいたのですが、少し問題は有りそうです。

まず、新しい制度をお話ししましょう。
1つ目は、篠山に住民票の有る妊婦さんが篠山市内の医療機関で出産した場合、
と言っても、タマル産か、ささやま医療センターのどちらかのことですが、
1回の出産で、5万円がもらえるそうです。だから申請しないと損ですね。
もう来週からなのですね。
今産むと早生まれになってしまいますから、4月に入って遅生まれの方が得かもしれませんよ。

ですが、私はこの制度には反対したのです。
どうしてかと言うと、日本は世界に誇れる、フリーアクセスという制度が有るわけです。
簡単に言うと、自由に病院や診療所を自分で選択して受診できるという制度です。
他の国では、そうはいかないのですよ。
だからタマル産が気に入らなければ、他の市町村で産んでもらって構わないのですが、
出産する場所を縛られると、不満に思う方も出てくることでしょう。
さらに、他の市町村が真似をすれば、かえって市内で産む人が減るかもしれませんよ。
それで、市のお偉いさんに反対の意向を示したのですが、そんなことは聞き入れられませんでした。

次に新しい制度の2番目です。
3人目以降の赤ちゃんを産んだ場合に、1人につき20万円がもらえるようになります。
無いより有った方がそれはいいです。
ですが、たった20万円では、そのために産むという人も居ないでしょう?
できれば200万円くらいなら、もう1人産んでみようかな、と考えるかもしれません。
私は篠山市の方に、高校までの養育費を無料になるようにしてはどうかと提案しました。
もちろん予算の関係でダメだとおっしゃる。
それなら、1人目、2人目の助成はすべてやめて、3人目以降に集中して助成してはどうかと提案。
だって、1人や2人なら助成が無くても産むでしょう?
3人目は迷うではないですか。そこに助成しなくて何になりますか。

3つ目の新しい制度です。
不妊治療に際して、体外受精や顕微授精のARTを受けた場合、
今でも県から助成金が受けられるのですが、
篠山市は、これに付加して助成するそうです。
内訳は県と市を合わせて、1回、10万円になるように、だそうです。
対象は県で審査が通った人、です。

そして、この制度にも意見を言いました。
不妊治療の多くは、体外受精ではなく、
人工授精などの一般不妊治療で妊娠することの方がずっと多いのです。
これではいきなり体外受精を勧めているようなものではないですか。
だから治療内容に関わらず、不妊治療に要した費用に対して助成すべきだと言ったのです。
現に、福知山市などでは、人工授精でも体外受精でも、顕微授精でも、
その内容に関わらず、男性への治療はまた別に、助成が受けられるのですよ。
福知山市を見習って欲しいと言ったのですが、ことごとく断られました。
だいたい、産婦人科医の意見も聞かずに、制度設計をされているのですから、片手落ちですね。

と、せっかく市が子育て支援に乗り出したのに、文句ばかりでゴメンなさい。
でも、少し改良された方が、効果的だと思うのですよ。

妊娠中の花粉症の薬

2015-03-24 21:03:27 | 産科
3人に1人は花粉症の時代ですから、妊娠中でも花粉症が出るのは当たり前ですね。
しかも妊娠中はとくに、鼻づまりが強く出ると言いますからなおさらです。
先日、ベトナム人の妊娠中のカップルが、日本では花粉症の症状が出るけれど、
国に帰れば治ると言っておられました。
私のむかしの英語の先生はインド人女性でしたが、この方も京都に来るとたいへんでしたよ。

妊娠中の注意としては、薬を使うなら妊娠第5ヶ月から、というのが一般的です。
これは妊娠の第4ヶ月までなら、胎児の器官形成期と言って、
胎児の奇形と関係するからです。
妊娠第5ヶ月以降なら、もう奇形になる心配は有りませんが、
発育への影響は出る可能性が残ります。
みなさんもこれだけは覚えておいてくださいね。
ただし妊娠初期に薬を飲んでしまったので心配だ、と思われる方が居られますが、
飲んでしまったものは仕方有りません。以後、飲まないようにすればいいのです。

次に、花粉症の時でも、薬は絶対にダメか?と言えば、安全性を考慮すれば使用も可能です。
耳鼻科でも、タマル産でも、妊娠中の第1選択薬は漢方薬でしょうか。
まず小青竜湯(しょうせいりゅうとう)が処方されるのではないでしょうか。

さらに西洋薬ということであれば、きっと皆さんはこちらが知りたいのでしょうから、
上にまとめの表を示しました。
あすか製薬という製薬会社の資料です。

一番左の列と一番右の列が、薬の名前です。
左端は一般名であって、固有名詞なのですが、
右端は薬屋さんで売られている時の名前です。
アレグラがよく宣伝されていますね。自分でも薬屋さんで買えますからね。
アレグラの一般名はフェキソフェナジン塩酸塩という長い名前ですが、
こちらは病院に行った時に処方される名前で、薬屋さんい行けば、
その薬が、メーカーごとにいろんな名前で売られているという仕組みです。

妊娠中に飲めば、胎児への心配となりますが、
産後の授乳期に飲めば、乳児への心配となります。
胎便を通過するか、乳汁中に移行するかで、分けて影響を考える必要が有ります。

いろんな機関が調査していて、
FDA分類とか、オーストラリア分類とか、Meditation and Mother's milk、
それに妊娠と薬情報センターなどです。

FDAはABCDXの5段階でAが一番安全という意味。
オーストラリア分類はBがさらに3つに分かれ、7段階評価。
M&MはL1が最も安全、L2が比較的安全、L3がおそらく安全、
L4が悪影響を与える可能性あり、L5が危険の5段階です。

妊娠中も授乳中もどちらにも使えて一番安全そうなのは、「ロラタジン」でしょうか。
ということで、今年からタマル産でも、ロラタジンを在庫しています。
メーカーによって、名前は変わるのですが、
タマル産に有るのは、小さなオブラート状の薬なんですよ。
水なしでも舐めるようにして、飲み込むことができるのが、変わった剤型ですね。

ちなみに、私も数年前から花粉症が急に出始めましたが、
「酵素液」を飲み始めてから、すっかり治ってしまいました。
まだ家族内での実験中ですので、みなさんには強制しませんよ。
でも妊娠中でも害はないので、試してみてもいいでしょうね。