タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

卵巣がんはスクリーニングできるか

2018-02-28 21:33:56 | 婦人科
丹波市柏原町の柚葉(ゆずは)ちゃん、1月23日生まれ。
「元気で優しい子に育ってください。
お産はほとんど痛みも続かず、自分の中では楽にお産できました。
入院中は天国のようでした。」

天国がどんな感じかは、人それぞれでしょうけれど。
家族の支援も良好のようでしたよ。

さて今日は、久しぶりに婦人科の話題です。

年度末は、本当に子宮頸がん検診で受診される方が多いのですよ。
できれば誕生月検診にしていただくと有難いのですが、
無料券の期限も有って、年度末に来院されるのですね。

子宮頸がん検診だけならすぐに終わるのですが、
せっかく来院されたのだから、ついでに子宮にできものが無いか、
卵巣が腫れていないか、などを超音波検査で見ておいてあげることもしています。
本当は費用に含まれていないので、しない方が良いのでしょうね。
ですがこちらがしなくても、卵巣がんが無いか診て欲しいという方も居られます。

では、卵巣の超音波検診で、果たして卵巣がんの検診ができるのでしょうか?
そんな研究が報告されました。
米国予防医学専門委員会の報告によると、卵巣がんのスクリーニングには、
超音波や腫瘍マーカーであるCA125の検査はともに推奨しない、と発表したのです。

アメリカでは卵巣がんは5番目に多いがんです。
日本女性では12番目に多いがんです。
とくに45歳以上で多いのですよね。
日本では乳がんになる女性は毎年9万人ほど、
子宮がんが3万人ほど、卵巣がんが1万人ほどなのですよ。

先ほどのアメリカでの報告ですが、
スクリーニング検査をまったく受けなかった群と、
超音波検診を受けていた群、
それに腫瘍マーカーのCA125の採血をしていた群の3つに分けて10年間調査してみたのですが、
いずれも違いに有意差が出なかったのですよ。
簡単に言えば、卵巣がんの検診を受けていてもいなくても、
長期の死亡率は変わらなかったのです。

そう言えば、乳がんと子宮がんは、かなり啓蒙が進んでいますね。
ですが卵巣がん検診を受けましょう、とはあまり言われませんからね。
それに卵巣が腫れて、がんが疑われて摘出手術をしても、
超音波検査で指摘されたうちの3.25%は悪性でなかったということです。
もっとも良性でも大きければ摘出手術をしても良いとは思うのですよ。
ですが患者さんにとっては無駄な手術だったと思われることも有るのでしょう。

結局、卵巣がんは、今のところ生存率を改善するほど有効な検査法は無いということのようです。
ですが私の感想では、乳がんや、すい臓がんと同様に、
がん細胞から放出されるマイクロRNAという遺伝子検査は有用かもしれませんね。
今なら症例の多い大病院などで長期に渡り検査をすれば、
論文の1つや2つは書けそうですよ。

みなさんにはまだ乳がんのマイクロRNA検査しかオススメしていません。
こちらは価格的にもリーズナブルになりましたからね。
それにマンモグラフィーではまだまだ効果的という検査ではないですからね。

ちなみに私は天理に居た頃、
卵巣がんの新しい抗がん剤で、いくつか論文を書いているのですよ。
臨床婦人科産科という雑誌に連載されています。

進行期卵巣癌に対するEtoposide,CDDP併用化学療法 / 生川伸二,他/p487~492

進行期卵巣癌に対する維持化学療法としてのエトポサイド経口投与法の試み / 生川伸二,他 46巻 5号, pp. 625–627

母乳とくすりの話のその後

2018-02-26 21:29:14 | 産科
大阪府寝屋川市の大晴(たいせい)くん、1月22日生まれ。
「おおらかに、のびのびと、晴れやかな人生を送ってください。
お産では、うれしくて感動でした。
どの方も親切で、安心できました。」

大阪からの里帰りでしたね。
大阪と言えば、大阪で一番大きな(?)病院の産婦人科部長と、
それに助産師の師長さんに会ってきましたよ。
と言うのも、この土曜日は、同窓会でしたから。
京大病院の研修医6人と当時の新人助産師の同窓会だったのですよ。
同期の助産師さんも、その病院の看護師長さんになられていたのですね。

本当は8人だったのですが、すでに2人は他界。
みな部長クラスで頑張っているようでしたよ。
30年ぶりに一同が会したのですが、実は学会などでもよく会うし、
研究時代も一緒だったりで、目新しさは無かったのですが。

そのうちの一番仲の良かった1人が静岡の病院の部長を辞めて、
北海道の、人口がわずか2万人の町の町立病院に行くので、そのお別れ会も兼ねていました。
そうですね、あと10年ほどは好きな仕事をしてみたいのでしょうね。
もっとも私も、20年以上前に、縁の無い篠山に引っ越してきて、
産婦人科医療を一から始めたのですから、同じようなものかもしれません。

医者の世間話なんて、給料がいくらだとか、
夏休みはどれくらい取れるだとか、人事がどうとか、
資格試験の話だとか、定年後にどう道を付けるかなどの無駄話ばかりで、
ちょっとがっかりでしたよ。

敢えて言えば、自分の娘は大病院では産ませられないな、という再認識でしょうか。
だから開業したのですからね。
みなさんに良いお産をさせてあげよう、というその一心で。
だって話を聞いていると、本当に医療事故が多いのですよ。
もちろん忙し過ぎるというのも有るのでしょうが、構造的な問題が大きいのでしょう。

思い出話はそれくらいにして、前回の宿題の答え合せをしておきましょう。
潰瘍性大腸炎という病気に使われる薬で、メサラジン(商品名ペンタサ)という薬を取り上げました。
妊娠中や授乳中に飲んでもよいのかどうかという、なぞなぞでしたよ。

薬には必ず添付文書というものが添付されています。
調べたければ皆さんも、ネットで簡単に検索できますよ。
ただしたいていの場合は、妊娠中は必要が有れば飲んでも良いとあります。
こういうのを有益性投与、と言うのです。

ですが授乳婦さんでは赤ちゃんに移行してしまうのでダメ、禁忌と書いてあることが多いのですよ。
お母さんが飲むのは良いのですが、授乳はしてはいけないという意味ですよ。
それでこの薬もやはり、授乳禁と書いてあります。
製薬会社ですから、たいていはダメと書くのですよね。
これでは産後に飲める薬なんて無いではないですか。

仕方がないので私が虎の巻にしている、山下晋という薬剤師の先生が個人で古くから書かれている、
「妊婦、授乳婦への薬物投与時の注意」という本を調べてみたのです。
ただ著者が高齢になられ、改訂版が出ないのが難点です。
だって薬は、毎年新しいものが発売されますからね。
製薬会社の本と違って、文献から丁寧に調べられています。

その教科書によっても、
メサラジンは妊娠中は有益性投与だけれど、
褥婦はやはり授乳禁と書いてありました。
理由は、動物実験では催奇形性は認められていないが、
海外において新生児に白血球や血小板、赤血球の現象が起こったという報告が有るようです。
それに、母乳中に移行し、乳児に下痢が起こったと書いてありました。

やはり良くないのか。
それで今回さらに、大分県薬剤師会の発行されている書籍を取り寄せたのですよ。
こちらは定期的に改定されています。
それによると、こちらも乳児に下痢を引き起こしたとする報告があるため、
乳児の便の状態を観察しながら母乳育児を行う必要がある、とありました。
すなわち注意すれば安全(危険性は少ない)、という分類でしたよ。
同じ副作用報告を引用していても、考察は違うのですね。

データも有ります。
相対的乳児投与量(RID値)が、0.12〜8.76%で、
薬としては割と赤ちゃんに取り込まれる方だな、というところまで分かります。
けっこうおもしろいのですよ。
たかがデータが並んでいるだけの本ですが、よくまとめられています。
前回もお話しましたが、例えば甲状腺機能障害に対する薬を飲まれている妊婦さんは多いのです。
だからメルカゾールの説明、なんていうのも興味が有りましたよ。

よくみなさんから電話がかかってくるのです。
内科でこんな薬を処方されたけれど、飲んでも良いか、とね。
でもね、そういうことは処方した先生に聞いてもらわないと。
それが無理なら飲まなくても良いのではないですか。
でも長期に飲まないといけない薬などは、ちゃんとお調べしますから受診してくださいね。





妊娠と内科的な疾患の関係

2018-02-23 21:27:42 | 不妊症
丹波市氷上町の恵芽那(えめな)ちゃん、1月20日生まれ。
「優しく、元気な子に育ってください。
お産はたいへんでした。
みなさん優しく、丁寧に教えてもらえました。」

初めてのお産は、やはりたいへんでしたか。
だいじょうぶ、次はもっと楽に、上手に産めますからね。

さて前回は不育症のお話をしました。
もう少し詳しくお話しましょう。

最近、不妊症治療後に妊娠された方の1人なのですが、
せっかく妊娠されたのに、流産されてしまったのです。
妊娠初期の検査で尿糖が陽性で、流産後に検査したところ、やはり糖尿病だったのです。
その方が数年前に来院された時には、尿糖は陰性だったので、糖尿病までは検査しなかったのですよ。

やはり不妊治療の最初に、糖尿病はチェックしておかないといけませんね。
それで初診の方では、全員に尿検査をしているのです。
それでも再診の方には尿検査をしないことも有りますからね。
このように糖尿病は不妊や不育症、それに妊娠への悪影響が大きい病気です。

もう1つ、不妊症や不育症の原因として重要な病気は、甲状腺疾患です。
それで不妊症の方には、まずする検査なのですよ。
甲状腺とはノドのところに手で触れる臓器です。
身体の代謝をコントロールするホルモンを放出するのです。
このホルモンを甲状腺ホルモン、あるいはT4(ティーフォー)と呼びます。

そして甲状腺に命令しているのが、頭の中の下垂体から放出される甲状腺刺激ホルモン、
あるいはTSHという名のホルモンです。

この2つのホルモンの値が正常だと良いのですが、
T4が下がって、TSHが上がると、甲状腺機能低下症、
T4が上がって、TSHは下がると、甲状腺機能亢進症ということになります。
どちらも治療してあげると、流産や早産も少なくなるし、
妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剥離も減ります。
数値で言うと、妊娠を考えていない女性なら、TSHは3.5以下くらいで良いのですが、
妊娠を考えるなら、2.5以下くらいにコントロールしておいた方が良いのです。

どうも丹波圏では、甲状腺疾患を診てもらえる病院が少ないのですよ。
検査に異常が有れば、すぐに神戸の隈病院という病院に紹介されてしまいますね。
近くの内分泌が得意な内科の先生でも十分だと思うのですが。

タマル産に、甲状腺癌の術後で、甲状腺を取ってしまった女性が居られます。
前回は甲状腺ホルモンを内服するだけで、普通に産んでいただきました。
今回は2人目を妊娠され、隈病院で、もし妊娠したら、
今飲んでいる薬を1つ(25マイクログラム)余計に飲むように言われていたようです。
そう、妊娠しても神戸まで行かなくとも、自己判断でね、ということのようですよ。
妊娠すると甲状腺ホルモンの需要量が増えるのですね。

甲状腺でもう1つ注意するのは、甲状腺をやっつける自己抗体の存在です。
抗甲状腺ペルオキシターゼ抗体(抗TPO抗体)などが陽性の場合は、
たとえT4やTSHが正常でも、原因不明の不妊は1.5倍、
流産率は3.73倍、反復流産は2.3倍、早産は1.9倍に増えます。
ただしこちらは原因は未解明で、しかも治療はできないので、前向きにトライしていただくしかないのですが。

他にも内科的な病気で、妊娠しにくくなるような病気も有るのですよ。
たとえば全身性エリテマトーデスとかです。
それは滅多に遭遇しないので、ここではパスしておきましょう。
たまには有るので、忘れてはいけないのですけれど。

お医者さんがつくった妊娠、出産アプリ

2018-02-21 21:18:27 | 産科
篠山市後川の都紬(つむぎ)ちゃん、1月17日生まれ。
「お姉ちゃんと仲良く、元気で優しい子になってください。
みなさん優しくて、頼れる人たちばかりでした。」

理由が有っての陣痛促進剤の使用でしたが、これが結果的にはイヤだったようですね。
誰でも、できれば自然に産みたいと考えられるからですね。

それに対して、今日退院された初めてのお産のお母さんのことです。
妊娠高血圧症候群の重症で、予定より早くに産む必要が有ったものですから、
メトロイリーゼや陣痛促進剤を使用し、
最後はウォーターベッドではなく、分娩台でのお産だったのですよ。
産む前からとても不安の強いお母さんだったのですが、
退院の時に、先生のおかげで産めたので、とても感謝していると言っていただきました。
ほとんど1泊2日の間、つきっきりで丁寧に手伝ってあげて、出産されましたからね。
産後も子癇(しかん)発作を起こさないように、予防処置を取りましたしね。

お産の3人に2人は、放っておいても安産できるものです。
ですが残念ながら3人のうちの1人は、何かしらお手伝いしないと、生まれてくれないのですよ。
ですから世界的には、3人に1人が帝王切開で生まれているのですしね。
そういう意味では必要が有れば、医学的な介入も受け入れられると良いですね。
もちろんタマル産では、医学的な介入をすることは、ずっと少ないのですよ。

さて、前置きはこの辺で、今日の話題は日本産科婦人科学会が監修しているアプリで、
Baby+というものを紹介してみます。
以前は書籍と、webページでの提供だったのですが、
時代に合わせて、スマホアプリに変化していたのですね。

ダウンロードと詳しい説明は、上記のゼクシィのページからできます。

おすすめは何と言っても、胎動カウンターです。
タマル産では、お産が近づくと、皆さんに胎動図をお渡ししているのです。
赤ちゃんが10回動くのに要した時間を記録していってもらうのです。
でも、はっきり言って楽しいと感じていただけるお母さんも居られれば、
邪魔臭いと思われるお母さんも居られるでしょう。
ですが、この胎動カウンターなら、気軽に続けられそうですよ。


このソフトは、産婦人科の医師会が書いた教科書みたいな記事が有り、
これらをすべて読むことができます。
一般的なことはネットで調べるより、このソフトで調べた方が、確実です。
ネットの記事は、けっこういい加減なものが多いでしょう?
こちらは何度も日本中の産婦人科医が添削していますので、真実、なはずですしね。

他のおすすめの機能は、妊娠の週数に合わせて赤ちゃんのメッセージが来ます。
アルバムや日記の機能も有ります。
妊娠中の公的支援の話や届け出の話など。

陣痛カウンターも、便利かもしれませんね。
入院する前でもお腹が痛くなる毎にボタンを押せば、陣痛の間隔を教えてくれたり。
ぜひおすすめのアプリですからね。
こちらの案内パンフは、春になれば皆さんへの初期のプレゼントに入れる予定ですよ。
活用してくださいね。




不育症の助成制度

2018-02-19 21:04:41 | 不妊症
篠山市般若寺の成愛(なりあ)ちゃん、1月13日生まれ。
「誰からも愛される子になってください。
入院中は快適に過ごせました。
みなさんいつも明るくて、頼りになりました。」

2人目だったのですよね。
お姉ちゃんがいつも健診に一緒に来ていましたからね。
妹の誕生にびっくりしてしまいましたね。

篠山に引っ越ししてきた時に、
般若寺という地名のところにまず行ったのですよ。
篠山の歴史本で読んだのですが、フランシスコザビエルが西日本に3つ、教会を建てたそうです。
そのうちの1つが篠山の般若寺の辺りだったようですね。
もう1つは、本能寺の変で有名な本能寺の近く。
もう1つは、山口だったかな?

般若寺の近くの家に、裏返せばキリスト像が彫られている仏壇が有ったのだとか。
当時は篠山城主がキリスト教を信奉されていたから、みんなそうだったのですよ。
禁教令が出るまでは。
篠山は高槻と意外に近く、高山右近も来ていたようです。
ですがその時、私は般若寺の教会跡を見つけることはできませんでした。
どなたかご存知なら、お教え願えますか?

さて今日は、不育症の助成のお話をしておきましょう。
何回も流産して、なかなか赤ちゃんを授かれない場合を不育症と呼びます。
定義はどうでも良いのですが、一応お話すれば、
2回以上の流産や死産、早期新生児死亡がある場合です。

助成の対象は、検査のうちの保険診療以外の自費分の半額と、
治療費では低容量アスピリン療法とヘパリン療法ということになっています。
ですが、夫婦の所得が400万円未満で、しかも43歳未満です。

ただしですね、篠山市と丹波市と三田市には、この助成制度は有りません。
まあ有ったとしても、大した額ではありませんからね。
だいたいヘパリン療法には最近では保険が利きますし、検査の大半も保険で賄えますからね。
敢えて言えば、流産した組織を培養して、絨毛染色体検査をできるというところが、
ワンポイントでメリットかもしれません。

流産の原因はたいていは赤ちゃん側の染色体異常が原因と言われています。
ですがたいていは流産した組織の検査まではしないのですよ。
施設により違いますが、8万円くらいかかるのではないですか。
ですが助成が有るのなら検査しても良いですね。ただし助成は半額だけですよ。

もしも流産した胎児に染色体異常が見つかれば、
次の妊娠は放っておいても問題無いということです。
もしくは治療できないということを意味します。
両親のどちらかに染色体異常が有れば、高い確率で胎児も染色体異常を認めます。
あるいは女性が高齢となれば、最近では男性の年齢も関係していると言われますが、
加齢と伴に胎児の染色体異常の率も上がるからです。

逆に胎児に染色体異常が無かったらどうでしょうか。
お母さん側の異常ということになるかもしれません。
例えば子宮筋腫が有るとか、
糖尿病や甲状腺などの全身的な病気が隠れているとか。

ですが、あまり指摘されていないのですが、
一番多いのは、女性の喫煙だと思いますよ。
次は家族の喫煙かな。
それと年齢。
自己抗体が有るだとかは、むしろ原因としては少ないでしょう。

それにしても、ここ北摂丹波圏は、不育症に対しては興味が少ないようですね。
他の兵庫県の市町村では、たいてい助成制度が有るのですよ。
ですが繰り返しますが、助成が有っても無くても、さほど影響は有りません。

若い女性は喫煙してはいけない、ということだけです。