タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

逆子のお産

2015-03-18 20:22:31 | 産科
写真のお父さんは、タマル産で3人目です。
1人目の時に、夜中に付き添われていたのを、昨日のことのように覚えていますよ。
しっかりしたごお父さんの元では、家族も幸せになれますね。
赤ちゃんを育てて初めて、父親らしくなるのですが。

今日は「逆子(さかご)」のお話をいたしましょう。
というのも、先ほど、逆子で赤ちゃんが生まれたところだからです。
え?逆子って産めるのですか、と思われた方は居られませんか。

私たちの年代は、半世紀ちょっと前なのですが、
当時は自宅分娩が半々でした。半分は施設、半分は自宅だったのです。
そして、逆子はおそらく100%、経膣分娩だったことでしょう。
私なんかは自宅分娩で生まれました。
今は亡き祖母の家に行くと、よく、ここで生まれたんだと教えられました。
私もそんなお産に憧れていて、うちの3番目、4番目は自分1人の介助で、
自宅分娩をしたのですよ。

タマル産の助産師さんには、みなさん、お世話になられたでしょう?
開業した時からペアで仕事をしていますが、
この方も自宅分娩だったのですよ。同世代ですからね。

うちのカミさんは、施設分娩でしたが、逆子で生まれているのです。
ね、むかしは皆んな、逆子でも普通に産んでいたのですよ。
いつから産まなくなったかというと、ほんの16年ほど前からなのです。
この年に何が有ったかというと、ある医療事故を朝日新聞が大々的に報道したのです。
この年から医療不信がみなさんの心に植えつけられ、
裁判、とくに産婦人科への裁判が急増することになります。
次のきっかけは、福島県の大野病院事件ですね。
産婦人科医が一斉に、少しでもリスクの有るお産から引き上げてしまったのです。

それで、今では逆子なんて、産める施設がなくなってしまったのです、
タマル産以外は。
だって、わずか16年前までは皆んな、逆子だって、産んでいたのですよ。
突然、女性が産めなくなったなんてことは有りません。
ただ、社会的な適応で、逆子は帝王切開しているだけなのです。
ただし、こんな状況が続くと、若い研修医は、逆子のお産を見たこともないのです。
そんな産婦人科医が、逆子を普通に介助することなんかできないのは当然ですね。

では、どうして逆子のお産は恐れられるのでしょうか?
3つ、大きな原因が有ります。
1つは、赤ちゃんは頭が大きくて、胴体が小さいからです。太った赤ちゃんは逆ですが。
逆子だと首まではスムーズに生まれるのですが、頭が引っかかるから危険が高いのです。

2つ目は、あぐらをかくか、2つ折れで生まれてくるのですが、
足の間から、へその緒が滑り落ちてきやすいのです。
へその緒が圧迫されると、急に胎児がジストレスという危険な状態になるからです。

3つ目は、逆子だとそもそもお臍から胎盤までの距離が長くなってしまい、
へその緒が胎盤を引っ張ってしまうのです。
だからまれに、胎盤が剥がれる常位胎盤早期剥離になってしまうからです。

逆に言うと、これらが起こらないようにすれば、逆子でも安全に産むことができます。
そのためには子宮の中に、赤ちゃんの頭ほどのヨーヨーを入れるのです。
すると双子を産むみたいに、子宮の出口が拡がるので、後に続く頭が引っかかりにくいです。
また、へその緒も脱出しません。
一気に産むので、胎盤も剥がれにくい、といいことずくめですね。
これで安全に産めるというわけです。
ただし、お産は常に予期せぬことが生じますから、100%安全な方法なんて有りません。
もちろん、帝王切開を選択したとしてもです。

ここで質問です。
帝王切開を1件すると、分娩費用として、2人分くらいの収入が入ります。
おまけに事故が有っても悪く言われません。
それに対して、逆子を経膣分娩しても、収入はあまり変わりません。
とても気を使いますが、それほど感謝してもらえません。
おまけに事故にでもなれば、クリニックが潰れるかもしれません。
この時、あなたがお医者さんだったら、どちらの分娩方法を選択しますか?

患者さんだったら、という質問も入れなければいけなかったですかね。