タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

吸引分娩を知っておきましょう

2015-03-10 21:03:55 | 産科
丹波市春日町の香衣(かえ)ちゃん、2月8日生まれ。
「人を包み込むような、優しい心の持ち主になりますように。
1人目の時より呼吸の仕方を意識して、赤ちゃんが下りてくる感覚が分かったのが嬉しかったです。
ホテルのようで居心地がとても良かったです。退院したくないほどに!」

2人目なので、お産を楽しまれたようですよ。
余裕が有るでしょう?こうでなくっちゃ、いけませんね。

さて、今日もお産のお話です。
今日、1ヶ月健診で来院されていたお母さんの1人は、吸引分娩で出産されていました。
ですが1ヶ月も経てば、そんなことはすっかり忘れられているようです。
お産で入院していた時の思い出は、食事がおいしかったこと、でも時間通りではなかったな、などです。

それでも、皆さんも突然、普通に産めると思っていたのに、吸引分娩になるとか、
緊急で帝王切開になるとか言われてしまうと、受け入れるより仕方がありませんからね。
いえ、私は最後まで産む、と言っても、胎児の心拍が下がって、
ジストレスと呼ばれる、胎児機能不全となっていれば、否応なしですからね。

そこでタマル産では、妊娠後期のソフロロジー教室で、
胎児がジストレスになった時のイメージトレーニングも練習していただいています。
練習する前に、お産になってしまったという方も居られますけれどね。
緊急で受ける医療処置も受け入れられるよう、皆さんもイメージをしておいてください。

吸引分娩と言うのは、長四角ではなく、丸い掃除機の先のようなものをイメージします。
よく似た手技で、鉗子分娩を行っている施設は少なくて、たいていの施設は吸引カップを使用します。
こちらの方が胎児や産道を傷つけにくいし、鉗子ほど熟練を要しないからです。
以前はタマル産でも金属製のカップを使っていたのですが、これは裂傷が起きやすいので、
10年ほど前からシリコン製の柔らかい材質のものに変更しました。
一部の施設では吸引分娩はせずに、帝王切開だけというところも有るようです。

皆さんは、きっと自分はちゃんとお産できると考えておられるでしょうが、
世界の先進国では3人に1人は帝王切開です。
日本では5人に1人と言われますが、それはクリニックが帝王切開率が低いからで、
病院では3人から4人に1人くらいは帝王切開です。
さらに吸引分娩は全体で7%と言われています。
100人中7人もですよ!
タマル産では、帝王切開も少ないですが、吸引分娩もずっと少ないですよ。
それでもたまにしないといけないことが有るのです。

どんな妊婦さんが受けることになるかと言えば、
お産が遷延する、母体が疲労して陣痛が弱まる、胎児機能不全の3つです。
1つ目も2つ目は同じような意味で、お母さん側の適応という意味、
3つ目は胎児側の適応という意味ですね。
これは2014年の産婦人科診療ガイドライン書いてあることなのですが、
私に言わせると、臍帯けん絡と、胎児が大きすぎる、の2点が適応だと思っていますよ。

へその緒が首に巻いている胎児は4人に1人、やはりお産でトラブルになりやすいです。
いくら言っても妊娠中に太ってしまう方は、胎児も太ってしまって、お産がたいへんです。
これが2大原因で、お産が進まないからお母さんが疲労して、陣痛も弱まって、
胎児も長時間のストレスでジストレスになるのです。同じことですね。

方法は30分も続ければ、胎児の頭蓋内に出血するリスクが高まるので、
20分までと決められました。回数は5回まで。
それでダメなら緊急で帝王切開です。
ですが病院なら手術室や麻酔医に連絡して、廊下を走って行ったとしても、
30分以内に緊急帝王切開できるところは少ないのですよ。
タマル産なら分娩台と同じ部屋の同じベッドで、医師1人でしますから、1分後には始められますが。
この時間も計算して、吸引分娩を切り上げないといけませんね。

もう1つ、吸引分娩とセットで、クリステレル胎児圧出法という手技も併用します。
妊婦さんのお腹を押すのです。
妊婦さんの肝臓が破裂してしまったり、子宮が破裂してしまったり、という危険はほんの少し有ります。
でも自分だったら、手加減して押してほしいですか?
赤ちゃんが死にかけているのにですよ。

お産って、本当にたいへんですね。
他人事のようですが、吸引分娩をする時は、こちらも全身全霊です。
ですが、1ヶ月もすれば、何事もなかったように忘れ去られるのでしたね。