タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

人工授精は保険が利くか

2022-05-27 20:55:47 | 不妊症
今、タマル産の前庭は、イングリッシュローズが満開ですよ。
足元には、エリゲロンとキャットミントも共演しています。

ところで30年近く前の話になりますが、京大病院で不妊外来を任されていた時は、
週に1回の外来とは別に、近くの日本バプテスト病院でもアルバイトをしていました。
というのも不妊外来を担当するには、週に1回では治療はできないからです。
患者さんには気の毒でしたが、今日はこちら、次はあちらの病院で診ていたのです。

今では毎日、土日でさえ休み無く不妊外来を持っているので、卵の発育に合わせて治療できます。
逆に言うと、大きな病院の先生は、なかなか不妊外来を担当できないのです。
週に1回か2回の外来で、しかも土日は休みですから、卵の発育のチェックができないからです。
平日の午前だけでは、しょっちゅう仕事を休むわけにもいきませんからね。
そもそも不妊治療の教育を受けていない先生も多いのですよ。

この4月から、多くの不妊治療に保険が利くようになったのはご存知ですね。
不妊治療は、一般不妊治療、いわゆる人工授精までの治療と、
体外受精などの特定不妊治療に分かれます。
タマル産では以前は体外受精も行っていたのですが、今は一般不妊治療だけに専念していますよ。
それでも受診されるカップルの半分以上が妊娠されるからです。

その人工授精も4月から保険が利くようになったので、18,200円と消費税で2万円ほどのところが、
消費税はかからなくなって、しかも3割の5,460円になりました。
さらに丹波篠山市は特別に、一般不妊治療にも助成が有りますから、かなり割安です。

人工授精には2つの方法が有って、密度勾配法とスイムアップ法です。
タマル産では密度勾配法という方法で、詳しく言えば、ミニパーコル法、しかもニプロのキットを使用しています。
一時、パーコルには毒性が有るのではないかと言われたことが有り、さらに毒性が無いものを使用しています。
キットは高いのですがロスが少ないので、より多くの精子を回収することができるのですよ。
このキット、最近、職人さんが替わったので品質が変わってしまい、
ニプロに要望を言って、改善してもらいました。
それでもうすぐ新製品が出る予定ですよ。
それにしてもメーカーもので規格品と言えど、職人さんの手によることが有るのですね。

普通、精子は3ccくらいなのですが、この濃縮を行わないと、2.5ccは無駄になってしまうのです。
だって0.5ccまで濃縮をして、すべての精子を子宮の中に入れるからです。
この作業にまるまる1時間ほどかかるのですよ。
実は外来診が始まる前の、朝の8時から人工授精をしています。土日もね。
だから不妊治療を始めれば、休みなんて無くなると思わなくては。お産もですが。

他院でも人工授精をしている施設が有りますが、近辺の病院には無く、
西脇市などでもされていますが、それは精子濃縮をしていないので保険適応にはならず、まるまる費用がかかるはずです。
しかも2.5cc分は無駄になりますからね。
遠くは日本海の方からもタマル産まで治療に通われる方が多いです。

みなさんもきちんとした知識を持たれた方が良いですね。

初産の里帰りは必要無い?

2022-05-20 20:48:29 | 産科
赤ちゃんとお母さんが退院される時は、なるべく見送っているのです。
でもね、初めてのチャイルドシート選びはけっこう難しいです。
間違って買うと、結局、抱っこして帰ることになるのですよね。

今日、免許の更新に行ってきたのですが、チャイルドシートの説明がちょうど有りました。
新生児はね、チャイルドシート(幼児用シート)ではなくて、
ベビーシートでなくてはダメなのですって。

4歳以上はジュニアシートです。
チャイルドシートは新生児対応と買いていますが、まず新生児には無理ですからね。
ですがたいていのご両親は、ベビーシートでなく、チャイルドシートを買って来られるのですよ。
ベビーシートはね、完全に水平になるベッド型ですよ。
1歳半までしか使えないのが普通です。

私も孫が生まれる時に久しぶりに買いましたが、
ワンタッチで車のベースに取り付けられるベビーシートが便利でした。
普段はキャリーとして使え、降ろすとベビーカーにもワンタッチで取り付けられるものです。
ジョイーのメーカーなら、アマゾンで安く売っていますよ。

ここまでは前振りで、最近、石川県の輪島病院事件というのが報道されていましたね。
残念ながら年間で新生児死亡って、全国で600人くらい起こります。
ですが日本は世界で最も少ないのですよ。
だからこれ以上減らすことは無理です。
その中の1症例だけを切り取って、メディアは報道するのですよね。

仕方がないので、私なりに解説しておきましょう。
地方の2市2町で唯一の市立病院の、唯一の産婦人科医がお産を担当していたのですよ。
タマル産と状況が少し似ていますね。

妊娠35週の里帰りの切迫早産の妊婦さんを入院させたのです。
医師は休みの日でお昼前に病院を離れ、出血が増えたことで呼び出され、午後4時頃に病院に帰院し、
午後8時に吸引分娩で出産したけれど、新生児化死で生まれたため転院となるも、
翌日に新生児が亡くなったということのようです。

帰院する前に陣痛促進剤を指示したことも批判されているようです。
おそらく助産師の報告で、出血が増えたので早く産ませてあげたいと考えたのでしょう。
ですが帰院後4時間ほど診ているところをみると、
緊急で帝王切開をしないといけないという状況ではなかったのではないでしょうか。
子宮口も全部開いていて、吸引分娩ならなんとかなると判断したのでしょうね。
世の中の産婦人科医なら、誰しもそんな経験は普段からしているものです。
確かに結果が悪かったのですが、初めに書いたように、年間で600人くらいは起こることなのですよ。

私はなぜ病院や市長が総出で頭を下げるのか理解できません。
今の時代でもまるで腹切りが行われているようで、違和感しか覚えないのです。
おそらく石川県の地方では、これでお産する病院が無くなるのでしょうね。
ネットでは、この産婦人科医に対する中傷と、
わざわざ医療設備の整った都会から、医療資源の少ない地方に里帰りすることも批判されています。

私は丹波篠山市で、1人で市のお母さん方を守るのが使命だと考えていました。
ですがひとたび事故が起こると、袋叩きになる現状はどうかと思うのです。
輪島市も5825万円の和解金を払ったようです。
市としては、そんなことなら里帰りして欲しくなかったことでしょう。
市内在住の方へなら市民税も注げたでしょうけれど、その和解金は都会に持って行かれるのです。
赤ちゃんに障害が残ったのなら、養育費として産科医療補償制度から助成されれば良いのです。
言葉は悪いですが、亡くなった場合は、ねぎらいの印でしかないのに高額ですね。

これは私なりの解釈ですが、一般の方は違う意見をお持ちになられたことでしょう。
以前、このブログでも小心者のジジーの話をしましたが、
今度はジジーは女性を語り、市の担当者や議員らに、タマル産が市のお産を独占していると批判しているようです。

兵庫県ではおおよそ半分の市町村にお産できる施設が無いのが現状なのにです。
1つでも有るということが有難いと思うのですが、そうでもないようですよ。
私も初産婦さんの里帰り分娩をこれからも取り扱うかどうか悩むところです。
市にとってはリスクばかりで出生数が上がるなどのメリットはないですからね。
しかもしっかりと管理されていない方が多いのが現状だからです。



無痛分娩の公開講座に参加しませんか

2022-05-13 18:27:20 | 産科
産婦人科専門医という制度が有って、若い頃に取りました。
むかしは医師でも博士になることが求められたので、医学博士にもなりました。
開業を見据えていましたから、麻酔科の標榜医免許も取ろうと、
臨床の合間にボチボチと7年ほどかけて麻酔科標榜医にもなりました。
さて、丹波篠山市で麻酔科の先生は私以外に居られるのでしょうか。

ですが今の若い医師は、医学的な研究を何年もして博士になるなんてせず、
9年ほどかけて専門医資格を取るというのが目標になっています。
初期研修は2年有り、その間に各科を回るのですが、
その間の12週間だけ救急に配属された時に、麻酔科を回っても良いのです。
ですから麻酔科を回らないか、回ってもせいぜい数週間なのですよね。

産婦人科では、帝王切開の麻酔は自分達でするので、
少なくとも脊髄麻酔(半身麻酔)は誰でもできます。
ただし無痛分娩の時の硬膜外麻酔は、できる先生は少ないと思います。
それこそ麻酔科の免許が無いと難しいのです。

そこで本題の無痛分娩についてですが、
医療事故が多いのはそのせいかもしれませんね。
経験が少なくても、麻酔科標榜医でなくても、ニーズに従って始めてしまうのですよ。

最近、無痛分娩を受けた方を2人、知っています。
1人は精神疾患が疑われる初産婦さんで、陣痛をもの凄く恐れておられました。
神戸市の開業医の先生で、麻酔の大家ですが1人で24時間付けるものでしょうか。
もう1人は私の患者さんではないのですが、大阪大で無痛分娩を受けられ、
産後ケアのためにタマル産に1週間ほど入院されました。
せっかく無痛分娩をしたけれど、産後の会陰切開の痛みが強いと言われていましたよ。
タマル産ではほとんど会陰切開はしないのですけれどね。

世間を賑わせている無痛分娩ですが、日本医師会が素人にも分かりやすいように、
市民公開講座を開催するようです。
zoomで誰でも参加できるので、興味を持たれている方は参加されてはいかがでしょう。
事前に下記から申し込みが必要です。
https://www.med.or.jp/people/info/seminar/009369.html
開催は5月21日、土曜日の14時から15時半ですよ。

それにしてもニュースは、視聴者稼ぎのために、おもしろおかしく医療問題を取り上げますよ。
それで産婦人科施設がどんどん消滅していっているのに、責任は取らないのですから。
この4月から再開された、子宮頸がんの予防接種にしたって、
中断したのは、ニュース番組で不安を煽ったからでしょう。


臍帯血バンクならぬ母乳バンク

2022-05-06 20:39:39 | 産科
農家の方は田植えで忙しいシーズンでしょう。
私も写真では県立フラワーセンターに居りますが、
この連休は異常分娩続きで疲れましたよ。

ところで皆さんは、「臍帯血バンク」という制度は聞いたことが有りますか?
赤ちゃんを産んだ後に出てくる胎盤と臍の緒から採血して、保存するというものです。

大きく分けると2つ種類が有って、1つは自分の赤ちゃんの将来のために残すもの。
もう1つは、他人の赤ちゃんの病気を治すために寄付するものです。

そして営利団体が主体になっているものと公的な団体が主体になっているものに分かれます。
自分の赤ちゃんが将来白血病になる確率なんて低いのでしょうが、
営利団体は営利を目的として勧誘する場合が有ります。
ただし途中で潰れても補償は有りません。実際に倒産したというニュースも聞きますよ。

公的なものとして、「兵庫さい帯血バンク」というものが有ります。
https://www.saitaiketu.org/
紹介ムービーを見られた方がよく分かりますね。

ですが残念ながらタマル産では提供できません。
採取してから回収されるのに時間がかかるので、おおよそ神戸市内だけなのですよね。
もし皆さんが協力できるとすれば、賛助会員になって寄付することでしょうか。

もう1つ、皆さんに知っておいていただきたいのが、「母乳バンク」という事業です。
むかしは母乳が出ないお母さんは、近くの母乳のよく出るお母さんから、もらい乳をしたものです。
最近は母乳といえど、感染の心配からか、あるいは近所付き合いの希薄さからか、
殺菌していないものは良しとされない風潮になりました。

日本は未熟児でも救える、数少ない国です。
ですがNICUに入院している赤ちゃんは、お母さんが帝王切開後で寝ていることが多く、
初期の授乳は人工乳をもらっていることが多いのです。
極低出生体重児の場合は、人工乳だと壊死性腸炎になる確率が高くなるので、
できれば他人のものでも母乳の方が望ましいのです。
そこで未熟児センターでは母乳バンクからの母乳を使用することも有るようです。

日本財団母乳バンクのホームページはこちら
https://milkbank.or.jp/
京都だと足立病院、滋賀県だと滋賀医大なのですが、
残念ながら兵庫、大阪にはまだ登録できる施設が有りません。
これから拡がると良いと思うので、皆さんも興味を持ってくださいね。