タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

出生前検査と着床前検査の違い

2021-09-24 20:47:43 | 不妊症
夜診が終わる頃は、もうすっかり暗くなりました。
昨日は秋分の日でしたから、これからさらに暗くなるのが早くなるのでしょうね。
その昨日の祝日も2人、赤ちゃんが生まれましたよ。
コロナで赤ちゃんを産み控える傾向も、少しましになってきたようにも感じています。

さて最近の話題に、「出生前」検査ならぬ、着床前検査のニュースが有りましたね。
出生前検査というのは、妊娠中期までにお母さんの血液検査で、ダウン症などの染色体異常を見つけるという検査のことです。
ですがこれに関しては、生命の選択という倫理的な問題に賛否が有りますね。
ダウン症の子はタマル産でもときどき生まれますが、みな元気に育ってくれていますよ。
平均寿命は短いのですが、生命の長短ではありませんからね。

それとはまったく別の検査で、「着床前」検査というのが有ります。
海外では広く行われているものですが、日本では選ばれた施設だけで共同研究が行われています。
この検査は体外受精の際にしかできません。
採取した卵を受精させて、たくさんの細胞に分裂したところで、
その中から1つの細胞を取り出して、子宮に戻す前に染色体の検査をしてしまうというものです。
これならまだ妊娠前なので、生命を中絶することなく、倫理的な問題が減るだろうという想定です。

その結果がニュースとして流れていましたね。
染色体に異常の無い受精卵を確認してから子宮に戻すと、流産率が下がるという結果でした。
2回以上体外受精をしても成功しなかったり、流産を繰り返す女性での治療成績ですから、信頼できるものでしょう。
ただし残念ながら、受精卵に染色体異常の有ることが多く、子宮に戻せなかった症例が多かったというのです。
それでトータルで見ると、着床前診断を行っても、生産率は上げることができなかったということです。
ただし体外受精で不成功が続く女性には、勧められるものだとされましたよ。

結局は医学は常に発展途上で、もちろん不妊治療の成績は向上していますが、
治療を受けられるカップルの年齢が上昇しているので、受精卵の染色体異常の確率が上がっていき、
いつまで経っても妊娠できないカップルの割合は改善できないのかもしれませんね。

本当は、医学を発展させることよりも、女性に、20代で子を授かるような社会にしていった方が本来の姿でしょう。
そうすれば不妊治療に多額の費用をかける必要はなくなり、
得られる子供の数も理想に近づくことでしょう。

今は年金のことばかり話題に上がりますが、
生涯、現役で働けるような環境を整えることも必要ではないでしょうか。
個人の未来よりも、子供たちの未来を考えてあげることの方が、より重要だと思うのですよ。

不妊治療の薬や人工授精が保険適応に

2021-09-17 20:47:22 | 不妊症
図は神戸大学産婦人科、山田秀人教授の教室の厚生省研究事業の結果の一部です。
この1年半で、妊娠中に新型コロナに感染した妊婦さんの評価なのです。
おそらく全員ではなくて、その一部の180人分の研究でしょう。

約1/4の妊婦さんは中等症から重症になるようです。
そのうち36週以降で感染した場合は半分強が帝王切開で産まれていました。
週数にかかわらず重症の妊婦さんは早産でも帝王切開されていたようです。
そのために感染した妊婦さんの1/4は、早産をされていましたよ。

結論として、妊娠中に感染すると、早産と帝王切開が増えるということです。
やはり新型コロナのワクチンを打っておいた方が良いということですね。
もっとも今のところ妊娠中にコロナで生命を落とされた方は居られないようで、良かったです。

次に新生児への影響ですが、感染して2週間以内に分娩になった場合は9割が母児分離されています。
赤ちゃんに会えないということです。
それに対して2週間以上経ってからお産になった場合は、77%が母児同室できたようですよ。
タマル産でも妊娠中にかかられた方と濃厚接触で隔離された妊婦さんが居られて、
どちらも満期で無事にお産されました。
以上がこれまでの報告です。

さて、今日はもう1つ別の話題も提供しておきましょう。
最近はニュースで来春の不妊治療の保険適応の話題が出てきています。

まず一般不妊治療で変わりそうなのが、排卵誘発剤として使用されているレトロゾールという薬が保険適応になるようです。
排卵誘発剤のクロミッドという薬と同じような使い方をするのですが、今は自由診療として処方しています。
もともと安い薬なので、保険診療になってもそれほどメリットは大きく有りませんが、説明は楽になりそうです。
だって乳がんで使う薬なので、抗がん剤ではないと毎回説明するのもたいへんですから。

一般不妊治療で大きく変わるのが、人工授精が保険適応になりそうなことです。
こちらはインパクトは大きいですよ。

次に高度不妊治療、いわゆる体外受精や顕微受精と、それに伴う凍結保存などですが、
その際に使用する注射が保険適応になるようです。
この注射は毎日する必要が有って、かなり高額なので、いいところをついていますね。
それで体外受精そのものが保険適応になるのかどうかは、まだ検討中のようですけれどね。
以上が速報でしたよ。

次の総裁選で女性の高市早苗さんが総裁になられれば、女性診療科を創設されるようですから、
女性のみなさんは応援されてはいかがでしょう。
もっとも女性診療科をすでに掲げている病院も有りますけれどね。
そうなるとやはり女医さんでなくてはいけないのでしょうか。
われわれ男性産婦人科医は、そろそろ退役が近いようですね。

コウノドリ頸がんが期間限定で無料ですって

2021-09-10 20:51:53 | 婦人科
写真は、マクドナルドのおまけでもらったお医者さんごっこセットを使用しているところ。
フェレットかな?の体温を測っているのですよ。
これが普段の当たり前の風景になってきましたね。

ところで本日から9月17日まで、期間限定で「コウノドリ」の子宮頸がんにまつわるエピソードが無料で読めるのですって。
https://comics.gendaibusiness.com/viewer/kounodori/4041
さっそく読んでみましたよ。
そうなんですね、主人公さくらのお母さんは子宮頸がんで亡くなっていたのですね。

今日も何人かの子宮頸がん検診をしました。
70代のお友達同士で来院された方も居られますが、本当は若い人に受けてもらいたいのです。
それは子宮頸がんの発症年齢は若くて、ピークは30代だからですよ。
日本では子宮頸がんによる死亡数は上昇していて、年間2,900人が亡くなっていて、
そのうち30代までの女性が200人です。

ワクチンを打ってさえいればね、かなりの確率で発症を抑制できるのにね。
副作用が怖いと親が打たせないのですが、子宮頸がんで亡くなってしまったら、打たせなくて後悔してしまうことでしょう。
今でも中学生から高校1年生の誕生日までは無料で打てますよ。
3回も打たないといけないので、先日は3回目が誕生日の後になってしまって自費で数万円払われた方も居られました。

俳優の松方弘樹の奥さんは仁科明子さんですね。
「勝海舟」を昔大河ドラマで観ていましたからね。ドラマの共演で結婚されたのですよね。
仁科明子さんは若くして進行した子宮頸がんになられて、京大病院で手術を受けられました。
私が研修医の時で、主治医が私と同期でしたからね。
その数年後に海外の産婦人科医が集まった世界不妊学会が京大主催で京都の岩倉で有ったのですが、
仁科明子さんのお姉さんの岩井友見さんのチームが、オープニングで日本舞踊を踊られたのですよ。
きっと手術のご縁だったのでしょうね。
私はこの時が国際学会のデビューだったので、印象深いのです。

当時はまだ、ようやく子宮頸がんの原因がヒトパピローマウィルスだということが分かったきたところだったのです。
この数年前に、私は外陰癌も同じくヒトパピローマウィルスが原因だということを発表しています。
天理の標本室から標本を再度切り出ししてウィルスを特殊な方法で染色していったのです。
さらに過去のカルテがマイクロフィルム化されていたので、
カルテを顕微鏡で見るという至難の枝を乗り越えてでしたよ。

どちらにせよ性感染症ですから、性行為が無ければならない病気なのですよ。
最近若い女性に、先進国では日本だけに子宮頸がんが急増しているのは、性モラルが悪化しているからです。
ピルの普及も一因でしょう。

来週も子宮頸がんワクチンの予防接種が3人入っていますが、ポツポツとしていたのでは集団としての効果は低いのです。
以前は70%以上の女子中学生が打っていた時期も有ったのですからね。
海外では男子中学生も無料で受けられる国が多いのですが、日本ではまだ男子は有料なので、
この辺りも改善しないと、撲滅するにはほど遠い状況ですね。

次の首相に期待したいですね。
厚生省かな。高市さんに是非なっていただきたいですね。



効率的なお産

2021-09-03 20:50:07 | 産科
毎週、新型コロナのお話では興醒めでしょう。
ですが明後日よりタマル産でも妊婦さんへのワクチン接種が始まるので注意事項を記します。
私自身も勘違いしていたことも有るのでここで整理しておきます。

質問で多いのが、解熱剤は使用しても良いか、というものが1つ。
できれば使用しない方が良いでしょう。
首から頭を冷やすことで対応してください。
まれに解熱剤で胎児の動脈管という血管が細くなって、亡くなってしまうことが有るからです。

次にインフルエンザなどの他のワクチンとの接種間隔ですが、前後2週間開けることになっています。

産後の授乳中に打ってもよいかという質問では、
妊娠中と違って推奨にはなっていませんが、授乳を中止したくない場合も注射しても良さそうです。
ですが数時間から数日でワクチンは分解されるので、親の判断で少しの間ミルクに置き換えるということも可能でしょう。

今回は妊娠中の女性が優先接種の対象なので、授乳婦の方は一般接種が本当のところでしょうけれど、
市はついでに受け付けているようですね。

今からでもワクチンの申し込みは可能なので、希望する方はなるべく早く申し込んでくださいね。
私も数百ページのマニュアルを読んで、手順も確認して、請求の仕方も読んでと、思ったよりもたいへんです。
とくに市をまたいでの丹波市の妊婦さんへの手続きがたいへんでした。
同じ保健所管内なのに、融通が利かないものですね。

さて、ここからが今日の本題です。
毎年、今頃の時期になると、近隣の病院から診療案内という本が送られてきます。
ここには前年の手術の成績などが詳しく書かれているのですよ。
それによると県立丹波医療センターの1年間の分娩数は299人でした。
タマル産が166人でしたから、倍近くですね。

その中で帝王切開をされた女性は84人で、28%。
タマル産では3人だけで、2%弱です。
タマル産も28%だったなら、46人の方が帝王切開になっていたはずで、43人の女性の帝王切開を防げたという計算になりますよ。
帝王切開は緊急だと22万2千円プラス薬代などがかかりますから、これだけで1千万円くらいの医療費が節約されています。
医師の数もタマル産は1人ですが、医療センターは6人ですから、1億円くらい余計にかかっていますね。
もちろん婦人科の治療も有るでしょう。
助産師さんの数も5倍くらい多いでしょうから、さらに1億円くらい人件費がかかっていますよ。

医療費をかけた分、それだけ安全になっていれば問題は無いのでしょうけれど、
帝王切開をするとやはりそれだけ合併症が増えます。
輸血をする女性も多いのですよ。
タマル産では輸血を必要とする女性は2年に1人くらいですが、医療センターでは年に数人でしょう。

どれだけ丹波篠山市のお産における医療費の効率が良いか、ということを考察してみましたよ。
普通はこれだけの成績を出すには、年間であと2億円はかかるということですからね。
ですが丹波篠山市ではお産をしない産婦人科に巨額の助成が降りているので、やはり無駄が多いかもしれませんが。

追記:
解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンは妊婦さんでも使用しても良いとされますが、弱いながらもプロスタグランジン抑制作用が有り、胎児への影響は危惧されるので、禁忌ではありませんが、おすすめできるものではありません。

授乳婦へのワクチンは米CDCや日本産婦人科学会で推奨となっているものも有りますが、薬の添付文書には有益性投与となっています。
妊婦の場合は産む場所が無くなる、重症化しやすい、早産のリスクに伴う児への影響などの問題が有り、推奨されるものですが、
授乳婦の場合はそういった状況にはありません。
また乳汁中への薬の移行は少ないとされていますが、半減期が短い薬なので、少しの間授乳を回避することはおすすめできる方法だと考えます。