タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

梅毒は複雑な進行をたどります

2018-06-29 21:48:33 | 婦人科
韓国在住の莉和(りわ)ちゃん、5月24日生まれ。
「平和、和合をもたらす優しい子に育ってください。
陣痛がとても辛かったですが、無事に生まれてきてくれて感動しました。
丁寧に対応してくださり、とても力強かったです。」

1人目は韓国で帝王切開、2人目はタマル産で経膣分娩、
そして3人目もタマル産で経膣分娩できました。
外国で日本人が産むと、高い確率で帝王切開になりますからね。
しかも日本でも、前回が帝王切開だと、たいていは次も帝王切開でしか産めませんしね。
本来なら3回とも帝王切開になっていたでしょうし、
そうなればとてもたいへんだったでしょうね。

昨日は、下宿している大学生の次女のところに出かけてきました。
友人がこのブログを読んでいると聞いて、
これは若い女性のためになることを話さないとね、と感じて帰ってきたわけです。

近年、急激に届け出が増えている疾患が、若い人の「梅毒」です。
届け出、と言うのは、見つければ全例報告しないといけないからです。

私も何十年も産婦人科医をやっていますが、
顕性(けんせい)梅毒というものを診たことが有りません。
血液検査で引っかかる梅毒や、むかし治療して今は治っている、というような場合はよく有るのですが。
先月、タマル産で産まれたお母さんも、以前梅毒の治療をして治った後の妊娠でしたしね。
飛び込み出産した女性が、梅毒検査で陽性だったとかは有ります。

クラミジア感染症なら、女性が月経以外に出血するという症状と決まっています。
淋菌感染症なら、むしろ男性の方が症状が強くて、尿道から膿が出るので、すぐに分かります。
ですが梅毒は、これなら、という症状が難しいのですよ。
血液検査で偶然見つかることが多いものです。

教科書的には、感染してしばらくしてから、外陰部や口やのどに硬いしこりができて、
破れて膿が出たり、そけい部のリンパ節が腫れたりするとされます。
血液検査では感染から6週間しないと分からないので、そこにも注意が必要です。

さらに数ヶ月すると、全身に大きめのバラの花のような紅い発疹が出るのですが、
特徴は手のひらや足の裏にも出るということでしょう。
そして神経まで侵されるというものです。

ですが最近発表された梅毒のガイドラインでは、
感染してから発症するまでの期間にはバリエーションが有って、
短かったり長かったりするというものです。
忘れた頃に症状が出るということですよ。

そして第1期、第2期、と順番に進むとは限らず、
初期の段階ですでに、蚊が飛んで見える眼の症状が出たりするなど、ステージが混在することも有るのです。
何らかの症状が出てもすぐに治ったりまた出現したりするので、病院を受診しないことも有ります。
結局、頭痛や難聴などの原因がよく分からない症状で発症することも有るので、
見落としてしまいがちだということを知っておきたいですね。
私も見落としていないかと、反省してしまいますよ。

日本でとくに特徴的なのは、男女間の性行為で感染することが多いというものです。
ただしトイレを共有したくらいでは感染しませんからね。
最近、クラミジアなどが陽性で受診される女性で、
ここ丹波圏でも、仕事で性行為をしているという女性が増えてきました。
結局自分の身体を危険にさらして得られる収入よりも、失うことの方が多いことに気づかれないのですよ。

今日はタマル産の噴水の周りに植えたルゴサローズ(はまなす)の花が初めて咲きました。


はまなすの花は、一日花と言って、朝に咲いて夕方に散るのですよ。
花言葉は「美しい悲しみ」です。
人生のはかなさを感じ取れるのですね。


丹波市の産後ケア制度を初めて使いました

2018-06-27 21:42:57 | 産科
石川県小松市の楓葉(かえで)ちゃん、5月21日生まれ。
「姉妹仲良く、誰にでも優しく、元気に育ってください。
ゆっくりと過ごせましたが、後陣痛が痛かったです。
相談にのってもらったり、みなさん優しく接してくださいました。」

お姉ちゃんの時のお産も、タマル産に里帰りでしたね。
石川県も、むかし学会で行きましたよ。住みやすそうな所ですね。

今日は夜中から3人のお産が有って、食事をする暇も無いくらい忙しい日でした。
5人目で初めてタマル産で産まれたお母さんは、
上4人が女の子で、初めての男の子ということもあり、喜ばれていましたよ。

そのほか今タマル産では、入院中のお母さんで、産後ケア制度を利用して、
退院後に再度入院されている母子が2組居られます。
篠山市では昨年から、そして丹波市ではこの6月から制度が始まっています。
本当は4月からだったのですが、タマル産だけ対象からはずされ、遅れて6月からだったのでしたね。
制度が拡がってきたおかげで、産後に不安なお母さんも、遠慮なく入院することができて良かったです。

そんなに利用することも無いかと思っていましたが、
月に1人くらいは、不安の強いお母さんが居られます。
あるいは赤ちゃんの泣き声に、辛くなると言われます。
報道では連日のように、赤ちゃんを虐待死させた事件が流れ、
若い親が非難されることが多いですね。
でもね、これってお母さんを非難するのではなく、助けてあげなくてはならないことなのですよ。

今も、入院されているお母さんの1人は、赤ちゃんへのストレスが強く、
本当は心療内科を受診しないといけない程度なのですが、
本人だけでなく、お父さんも受診に抵抗感を持たれているのです。
妊娠中からタマル産で健診していたなら、もっと早く対応できたのですが、
産後1ヶ月を過ぎてからの初診なので、対応が遅れているのです。

かなり以前の、篠山在住のある看護師さんのことを思い出します。
当時は産後ケアなんてもちろん無かったのですが、
産後に過換気症候群を発症されたのです。
最近では過換気なんて言わなくなり、
パニック症候群とされているものでしょうか。

すぐに心療内科の受診を勧めたのです。
この時もそのお母さんはキョトンとされ、精神疾患だとは感じておられなかったようです。
報告によれば、授乳も中止し、薬物治療をされ、
回復してきた頃にお手紙をもらい、
「早くに過換気症候群を診断していただき、感謝しています。
なかなか見つけるのが難しい疾患なようです。」という類の内容でしたよ。
その後、職場内の保育所に子供さんを預けられ、仕事復帰されたようです。

軽い場合は、薬物治療無しで、授乳を中止せずに、相談だけでも回復される方も多いです。
だから精神科に行ったら、偏見の目で見られて、しかも授乳もできなくなる、
などとは初めから考える必要はないのですよ。

この春からの診療報酬改定で、産婦人科の重点項目は、
乳房ケアと、この精神科との連携治療の2点です。
だから厚生省もその重要性を分かっているようですね。

ただ丹波市さんは、産後ケアを利用できる対象を厳しく絞っておられるようですから、
もっと気軽に利用できるようにするために、
むしろ行政側がこの制度の価値を早く認識する必要が有るでしょうね。

子宮体がんになりやすい女性のタイプ

2018-06-25 21:15:00 | 婦人科
先日生まれた赤ちゃんとお婆ちゃん。
お母さんは初めてのお産でしたが、お姉ちゃんが以前、タマル産で出産されているのですよね。
赤ちゃんを産んだ翌日に、お手紙をいただきました。
「里帰り出産のため、出産前、そして昨日の出産と、ご迷惑をおかけして、色々とお世話になりました。
入院中も宜しくお願い申し上げます。」
若いのに、びっくりしましたよ。

妊娠中も、お産の間も、だいじょうぶかな、と感じていましたが、
お産すると急に、お母さんの表情になるのが、おもしろいですね。
みなさんもそうですよ。
女性は一生の間に、いろんな経験をできて幸せですね。

さて、今日の話題です。
子宮がんには大きく分けると、2種類有ります。
子宮頸がんと子宮体がんですよ。

私が学生の頃、と言えば30年以上前ですが、この時の教科書には、
子宮頸がんになりやすいのは、性的に活発な人、
一方、子宮体がんになりやすいのは、赤ちゃんを産んだことのない人。
と、有った時代です。

それから数年後には、子宮頸がんの原因は性行為で感染するウィルスが原因だと分かりました。
ヒトパピローマウィルスという名前なのは、もうご存知ですね。
だから性的に活発な人が子宮頸がんになるのは、疫学的に合っていたのですね。

その後予防接種も発売されたのですが、心ない報道のせいで、未だに再開されていません。
抗体を持っていない日本女性の間では、ピルの発売に合わせて、フリーセックスが蔓延していますから、
それに伴って子宮頸がんが急増しています。
先日も妊娠で来院された女性が、初診時の子宮頸がん検診で子宮頸がんだと発見しましたよ。
予防接種が信頼されないのなら、この結婚せずにセックスだけする風潮を正さないといけないでしょう。

次に今日の主題は子宮体がんの方なのですが、
子宮体がんは赤ちゃんを産んだことのない女性に多いのです。
あるいは月経が若い頃から不規則な女性に多いのです。
体格もふっくらとした体格の女性に多いのですよ。
そんなことが疫学的には分かっていました。

それは欧米でのデータだったのですが、
最近、日本でも、国立がんセンターの調査で、
アジア人女性でも、肥満だとそれに伴って子宮体がんのリスクが上がるということが証明されたようです。
まあ目新しい結果ではなかったのですが。

ただし女性ホルモンのエストロゲン依存型の子宮体がんには肥満との相関が有り、
エストロゲン非依存型の子宮体がんには肥満との相関はなかったようです。
もちろん肥満の原因はいろいろ有りますよ。
糖尿病であったり、甲状腺機能の低下症であったり、精神的な過食症であったりです。

もう1つ重要なのが、PCOという病気です。
排卵しにくい病気で、肥満になりやすいのです。
だから肥満で月経不順になって、月経が起こらないと子宮内膜が更新されない。
それで子宮体がんになりやすい、ということですよ。
若い女性で月経が不順の場合は、やはり50歳頃までホルモン治療を受けておいた方が良いでしょうね。
もしくは若いうちに結婚して、何人も赤ちゃんを産むと子宮体がんになりにくいのです。

そのために結婚するのでは、もちろんないのですけれど。
ワンポイントレッスンでした。

先日、外来で、姉が子宮体がんだったと心配されていた方が居られましたが、
もちろん遺伝性疾患ではないので、心配は要りませんからね。



アドバンス助産師って、何?

2018-06-22 21:30:14 | 産科
篠山市真南条中の暁久(あきひさ)くん、5月18日生まれ。
「前向きに、いろんな事に挑戦できる子になってください。
産後は達成感と喜びを感じました。
赤ちゃんがかわいいし、ご飯が美味しかったので頑張れました。」

初めてのお産でしたからね。
まだまだ辛かった思いの方が多いのかもしれませんね。
ですが、産むごとに喜びが強くなりますよ。

さて、今日の話題は「アドバンス助産師」にしましょう。
何それ?と思われた方も多いのではないでしょうか。
恥ずかしながら私も、最近まで知りませんでしたよ。

この春から保険診療の適応となったのですが、
アドバンス助産師の居る分娩施設では、乳房のケアに管理料が取れるようになりました。
いえ、それは逆の発想で、乳房ケアをするには新しく資格を取りなさい、ということらしいです。

そもそも助産師という国家資格を持っているのに、さらに資格が必要なんて、おかしな話です。
しかもそれは民間の資格で、国家資格ではないのですが。
それでも時代に合わせる必要が有るでしょうからね。
1つの医療機関に1人、資格者が居れば、その者の管理下に、乳房ケアの専門施設ということになるらしいです。
それでタマル産には3人の助産師さんが居て、ちゃんと1人が資格者ですよ。

この資格を取るのには、いろんな講習会に出席して、常に新しい知識を得る必要が有ります。
しかも5年毎の更新性ですから、勉強し続けですね。

そもそも何故、こんな制度ができたのでしょうか。
それは看護師や助産師さんの学校は、ものすごく増えていますからね。
すっかり、大学や大学院を出てからなる仕事になってしまいました。
それだけ知識を詰め込まないといけないということでしょう。
むかしながらの助産師さんたちは、若い人に負けていられませんからね。

もう1つは、産科医になる先生が減り、「院内助産」という制度が始まっていることとも関係するでしょう。
通常の妊婦健診やお産には、医師が携わらずに、助産師だけでフォローするのです。
ハイリスクと考えられれば、医師に回す、という制度ですよ。
それで埋め合わせをしようとも取れますし、
いえいえ助産師の立場を上げようということかもしれません。

ただし注意する必要が有るのは、助産師も医師と同様に、責任を負う職種になるということです。
これだけ裁判が増えれば、それ相応に覚悟しておかないといけないでしょうね。

まあ、そんな外部的な目はやめて、素直に、
産後のオッパイケアは、知識を積んだ医療機関で診てもらいましょうということです。
そしてタマル産でも、3人の助産師が力を合わせていますからね。
それで、この夏の勉強会では、さっそく看護職全員で、
アドバンス助産師のテキストを、1冊、読破したというわけですよ。

もしタマル産で働いてみたい助産師さんが居られたら、今なら募集していますからね。




着床率を改善できるかもしれないというお話

2018-06-20 21:11:05 | 不妊症
東京都品川区の葵(あおい)ちゃん、5月17日生まれ。
「思いやりの有る、人から愛される子になってください。
3人目ということで、先生が優しくリードしてくださり、落ち着いて出産できました。
前回と同じスタッフの方がほとんどで安心できました。」

と、お世辞でも嬉しいので載せさせていただきましたよ。
東京では、3人も赤ちゃんが居るのは珍しいそうです。
ですが、ぜひ4人目にも挑戦してください。

今日、医療ニュースを見ていたら、「着床」の話題が有りました。
このブログでも何度もお話していますよ。
というのも、私のむかしの研究テーマの1つだったからです。

体外受精の時、精子と卵子を混ぜ合わせると、受精卵になります。
卵子1個に対して、精子は10万匹ほど混ぜ合わせるのですよ。
そうすると簡単に受精します。
これを2日から5日ほどシャーレに入れて、培養器で培養するだけです。
するとどんどん分割していくのですよ。
だからここまでは簡単なのです。

問題はこの先で、この受精卵が分割したものを、子宮にストローで戻します。
ただ入れるだけなのです。
双子や三つ子になっては困るので、むかしと違って最近では1個しか返さないのです。
だから「着床」する確率は、何個も戻すよりむしろ下がります。
おおむね20〜30%くらいでしょうか。
この着床率を上げることができれば、体外受精はみなさん、たった1回で成功するではないですか。
ですがここがネックになっているのが現状です。

この着床率を上げる可能性が発見されたというニュースですよ。
それが本当なら、画期的に体外受精の成功率が上がるのです。
その名は、HIF (hypoxia induded factor)です。
HIF1アルファ、HIF2アルファ、HIF3アルファ、HIF2ベータとか、いくつか有るようです。

HIFそのものは、以前から発見されていて、ある程度の機序も解明されています。
たとえばガンでは、血管が豊富になって、急激に発育するのですが、
この血管新生という現象に関わっているようです。
正常では、血管が心筋梗塞などで詰まると、そこを修復するように働くのです。

それで、マウスで、このHIFの発現を抑制すると、着床しなかったのだそうです。
ということはHIFを増やせれば、着床率が上がるということになりますね。

理由は、受精卵が子宮に働いて血管を豊富にし栄養を得ていくのですが、
胎児側の絨毛と母体側の脱落膜が一体となり胎盤が形成されていく過程において、
働いているからでしょう。

ちょっとこれは興味深いですね。
そう遠くない将来に成功すると良いですね。
そうしたらタマル産でもまた体外受精を再開しましょうか?