Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

優しさに射貫かれる前に

2023年09月14日 | 映画など
金子由里奈監督
「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」を見る。
いま撮られ、いま見られるべき映画だと思う。
限りない優しさに溢れながらも、
冷静な視点も入れ込む作り手たちの矜持。


とある京都の大学にある
「ぬいぐるみ」サークル。通称ぬいサー。
ぬいぐるみをつくるのではなく、
ぬいぐるみと語るサークルに集まる学生たちの物語。

メンバーたちが
サークル室にあるぬいぐるみに語りかける。
ただそれだけの描写がいとおしい。
人を傷つけること、そして他人を傷つけることを
極端に恐れる傾向があるのは、今の若者に限らないし、
そのメンタリティーは腑に落ちるところがある。

細田佳央太演じる七森くんは、
恋愛が苦手というか、そもそも恋愛というものが
理解できない男子で、小さい頃からずっと
もやもやしたものを抱えている。
彼は、駒井蓮演じる同級生の
麦戸さんと仲良くなるが恋人というわけではなく、
傷を抱えた仲間同士のような関係性だ。
そんなふたりの間に入り込むのが、新谷ゆづみ演じる白城さん。
ぬるま湯のようなぬいサーに心地良さを感じつつ、
現実はもっと厳しいでしょう、ジェンダーバイアスかかりまくりの
世の中で生きていかなきゃいけないんだからと強がる女の子だ。

白城さんの視点があるからこそ、成り立つ映画というか。
ひたすらぬいぐるみに心情を吐露する
人ばかり出てくるなかで、唯一の傍観者であり、
その視点は、本作を見ている観客と繫がるような気がする。

それにしても、優しい映画だ。
傷つくこと、そこから再生すること。
いや、むしろ再生しなくても生きていけることなど、
新しい生き方が示唆される映画というか。

ぬいぐるみに囲まれた、
ある意味閉鎖された空間がメインでありながら、
登場人物たちが、なにかというと歩き、喋ったり、食べたりする。
日常生活をしっかりとらえたカメラワークが素晴らしい。

最後に戯れ言を。
駒井蓮って、そうか「いとみち」のヒロインだった
引っ込み思案な、津軽三味線を弾いていた女の子か。
新谷ゆづみって、そうか「さよならくちびる」「麻希のいる世界」で
地獄に墜ちかけた女子高生を演じていた、あの子か。
このふたりの若手女優が出ているだけで、
世界中のシネフィルは大喜びしております。

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