Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

グロテスクな官能

2023年08月27日 | 映画など
デヴィッド・クローネンバーグ監督
「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」を見る。
おお。まさにぐちゃぐちゃでべちょべちょ。
変態そのものではないか。
やはりクローネンバーグはこうでなくっちゃ。
この監督、齢80を過ぎて、やりたい放題なのが頼もしい。


近未来において、
人間は「痛み」というものから解放された。
そんな世界において、
自らの肉体を文字通り解体して、
己の内臓をさらけ出すパフォーマンスが
持てはやされるようになる。
ヴィゴ・モーテンセン演じる主人公は、
体内にあらたな臓器をつくることができる特異体質の男で、
レア・セドゥ演じるアーティストの手を借りて、
その腹をかっさばき、誰も見たことのない臓器を摘出し、
観客の前でこれでもかと披露する。
内臓をさらけ出すヴィゴ・モーテンセンの恍惚の表情は、
セックスそのものと言っていいだろう。
これはあらたな人類の夜明けなのか。
だとしたら、なんという官能的なディストピア。

変態どもを徹底的に肯定し、ありえない未来を提示して、
こっちにおいでおいで、と観客を挑発することこの上ない。
いっそ、そっちに行っちまった方が楽かなあ。
変なストレス無さそうだし、
文字通り腹を割ってみんなと話せるんじゃないの、
と思うシネフィル(自分、だ)は
どうかしていると思いつつ、傑作だなあと感じ入るわけで。

思えばクローネンバーグという人は、
ホラーの形を取りながら、「スキャナーズ」や
「ビデオドローム」「ザ・フライ」「クラッシュ」などで、
人間の肉体をとことん解体し、
ヒトではないものとの愛の交換を描き
人間の深層心理を暴こうとしてきた監督だと思う。

露骨で下品でありながら、官能的かつ文学と哲学の香り。
お洒落ですらある作風が唯一無二、というか。
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」とか
「イースタン・プロミス」といった近作は
クライムものの傑作ではあるけれど、
内臓ぐちゃぐちゃが封印されていて、
寂しい思いをしていた世界中のシネフィル(かつ変態)は、
大いに喜んでいることでしょう。

コメント
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