グレタ・ガーウィグ監督「バービー」を見る。
あのですね。この映画を大傑作だと
絶賛する人のなかで、男性がいたとしたら、
その人のことはあんまり信用しちゃいけねえな、
とずいぶん懐疑的な気分になってしまったという。
かくいう自分も男性、であり、見終わったあとたまらず、
これは傑作と吹聴したくなったけれど。
ちょっと待てよ、と。
言わずと知れたバービー人形。
時代とともに、金髪白人八頭身の女の子だけでなく、
さまざまな職種や人種のバージョンがつくられている。
ポリコレにもダイバーシティにも配慮しているのが、
このバービーの玩具シリーズであり、販売元のマテル社だ。
だからバービーの世界では、
すべて女性が主導権を握っている。
大統領も議員も医者も作家もぜんぶ女性。
バービーには「ケン」という男性の人形がいて、
それは完全にバービーの添え物なので、
本作でも男は完全にお飾り。
バービーたちを引き立てる存在に過ぎない。
でもね。それはバービーの世界だけ。
実際の世界はどうなのさ?
女性が活躍どころか、ずっと抑圧されてるじゃないの。
たしかにバービーはあたいたちに勇気を与えてくれたけど、
まだまだ足りない。いいからあたいにまかせなさいよ!
とグレタ・ガーウィグ監督が言ったかどうかはともかく、
バービーたちを人間に演じさせ、
あくまで架空である女性上位の世界観を現実にぶちこみ、
それをゆるゆるでオフビートな演出で
エンタテインメントとして見せながら、
男たちの馬鹿さ加減と、
抑圧された女性のリアリティーを浮き彫りにする。
冒頭「2001年宇宙の旅」のパロディで
映画を始めるあたりの無邪気さと大胆さに
作り手たちの本気度をみる。本気だけどお馬鹿。
お馬鹿だけど、本気。
男性は見てられないと思う。
だって、ケン役のライアン・ゴスリングなんか、
ほんとアホ丸出しの役柄だし。これでもかと
男社会を笑い飛ばしていく展開に、馬鹿にしやがって、と
パターナリズム(父権主義)に親和性のある人たちは怒るはずだ。
でも、そういう人はまだマシかも。
あっはっは。男って馬鹿だなあ。よくわかるよ。
だって、ボク、リベラルだからさ、という人は信じちゃダメです。
かくいう自分も「リベラルだよん」という顔をしながら、
実際のところ昭和な価値観が染みついているわけで。
見ていて痛快だけど、ここまで男がアホ扱いされると、
自分の中にあるジェンダーバイアスがふつふつと
湧き上がってしまう。でもそれはきっと
監督および映画の作り手の術中にはまったということだろう。
本作でコケにされている男たちの姿は、
現実では女性が置かれている立場だと思い知らされるわけだから。
真のリベラリストなら、絶賛してしかるべき傑作だし、
シネフィルとしても、ずっとグレタ・ガーウィグは
すぐれた監督だと応援してきたわけで、
本作の全米ナンバーワンヒットは嬉しい限り。
ほほお。前から応援してきた監督がついにブレイクか。
んもお。だから言ったじゃないの。
ま、「フランシス・ハ」とか「レディ・バード」の頃から
評価してきたけどね、ほんと昔からだよ。昔。うふふ。
と自慢するシネフィル(自分、です)は
地獄に墜ちることでしょう。
あと、こんな映画をつくるアメリカは凄い。
たとえば日本でリカちゃんの実写映画を
橋本環奈主演で作るなんてできないだろう。
タカラトミーが全面協力なんかするわけないじゃん。
だから日本映画はダメなんだという輩も
ずっとチンボツしたままでいいです。
ともあれ、グレタ・ガーウィグ監督。
とんでもない映画を作ってくれました。
こんなに挑発的にしてくれてありがとうと言いたい。