アスガー・ファルハディ監督「セールスマン」を見る。
暴漢に襲われた妻。事件を解明しようと懸命になる夫。
犯人は一体誰なのか、というミステリー展開に
引きこまれているうちに、全く別のテーマが
浮き上がってきて、思わず見入ってしまったという。
妻が襲われる。知らせを聞いて病院に駆けつける夫。
どうしたんだ、何があったんだ。
そう問いかける夫に、妻からの言葉は少ない。
ただ怖いから傍にいて、と。
しかし、妻を傷つけられたことに
怒りと焦りに苛まれた夫は、犯人捜しに懸命になる。
ふたりは舞台役者でもあり、
アーサー・ミラーの「セールスマンの死」の上演風景が挿入される。
舞台の上の登場人物の苦悩と、
それを演じる夫と妻の苦悩がシンクロしていく。
つまりは、夫婦の映画なんだなと思う。
お互いの苦悩が理解されないまま、どんどん物語が転がっていき、
どうにもならない展開を目の前にしたとき、
夫も妻も。そして観客も途方に暮れるしかないのである。
中東マニアとしても、大変興味深い映画というか。
イラン映画でアーサー・ミラーの名前が出るとか。
警察など国家権力への不審感とか、
性犯罪のシーンの見せ方とか、
興味は尽きることはないのだけど、それはまた別の話。