Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

星の男

2014年11月18日 | 日々、徒然に

高倉健さんが亡くなったという。

享年83。なんということだろう。

 

最後の映画スター、と言う人が多い。

確かに、最後の最後まで映画俳優として、

しかも主役を全うしたのは、この人ぐらいしかいない。

 

「昭和残侠伝」や「網走番外地」のシリーズを始め、

東映のアクション映画を支えた、まさに大スターだったのだけど、

リアルタイムでは体験できず、個人的に高倉健という人を意識したのは

山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」(77)から。

そういう意味で、健さんは、寡黙で不器用で一途な男を演じる人

という印象が刻まれていたというか。出ていたCMのイメージのせいかもしれない。

 

しかし、シネフィル的に過去の作品をさかのぼっていくと、

上記のような形容では勿体ないぐらいの

ポテンシャルを持った俳優だということがわかってきた。

 

 

たとえば深作欣二監督の「狼と豚と人間」(64)。

ヤクザの幹部の長男(三國連太郎)と、

チンピラの三男(北大路欣也)に挟まれた次男を演じた健さんは

一匹狼のヤクザで、長男に深い憎悪を抱きながら、

悪の匂いをプンプンさせたシャープな演技を見せてくれた。

「黄色いハンカチ」以降の、何を演じてもいわゆる

寡黙で不器用な健さんとは、違う。

 

 

たとえば加藤泰監督の「緋牡丹博徒・花札勝負」(69)。

主演はお竜を演じる藤純子で、

健さんはいわゆるゲストキャラクター。

お竜をサポートし、ほのかな情愛を交わす渡世人。

いつもは主役だけど助演にまわって、

藤純子を立てる健さんの頼もしさといったら、ない。

刀を持つ立ち姿の美しさと、豪快な殺陣は

アクションヒーローとして無類の存在だったと思う。

 

 

たとえば山田洋次監督の「遙かなる山の呼び声」(80)。

北海道の牧場を舞台に、罪を犯して逃亡中の健さんが、

未亡人の倍賞千恵子とのストイックな恋愛劇を見せる。

もちろん映画自体も名作なのだけれど、

コーヒー好きで有名な健さんがドリップでコーヒーを淹れるシーンがあり、

あれは本当に嬉しそうというか、

ひょっとして演技ではなかったのなという妄想を抱いたりして。

最後の最後は、共演のハナ肇においしいところを持って行かれるのだけど、

共演者に花(ハナ)を持たすのも、この人らしいというか。

 

膨大な出演作があるので、60年代から70年代にかけて

丁寧に作品を追いかけていけば、きっと傑作や名作はたくさん

あるのだろうけど、それは今後の楽しみに取っておきたい。

 

70年代後半から、大スターであることを義務づけられたというか、

前述したように、何を演じても同じタイプの役をやらされていた感があって

正直、主演作にそれほど魅力を感じられず、ちゃんと見ていない。

ポテンシャルのある俳優だったから、

きっといろんな役ができただろうし、

老人になったらなったで、助演にまわって、

きっと主役を引き立てるような役ができたはずだ。

悪人役の健さんとか見たかったし、コメディもできたと思う。

 

ただ、映画スターとして、しかも主役を張り続けることのできる人は

この人しかいなかったわけで(実はあと一人、吉永小百合がいるけれど)、

ずっと演じ続けるしかなかったのだろう。観客はそれを求めていたわけだし。

 

結果的に遺作となった「あなたへ」は、見た。

あれだけのオーラを放っていた大スターが、

スクリーンに映し出されると、なぜか小さく見えた。

年を取ったら取ったで、

俳優は渋味とかいぶし銀といった味が出てくるものだけど、

ついにそういったものを出せずに終わってしまったんだなと。

そこが高倉健であり、だからこその大スターであったけれど、

俳優としての成熟はついに見られなかった。

 

同世代のスターはみんなそうかもしれない。

石原裕次郎(34年生まれ)も、

勝新太郎、市川雷蔵(共に31年生まれ。健さんと同年)も、

中村錦之助(32年生まれ)も、若くして亡くなったり、

俳優として成熟できず、映画俳優としての人生を全うできなくなったりした。

こうした大スターたちの中で、唯一長生きして、

最後の最後まで主役を張った高倉健という人、やはり希有な存在だったのだなと。

 

メディアはしきりに共演者のコメントを流しているけれど、

誰か沢木耕太郎さんから談話を取ってもらえないだろうか。

「貧乏だけど贅沢」という対談集で、健さんは

好きな映画はジョン・フォードの「長い灰色の線」であるとか、

ヘプバーンの「ローマの休日」や「昼下がりの情事」だと語っている。

あと、こんな発言もある。以下、引用。

自分の未来はどんなふうに見えているんですか、という問いに対して、

 

「僕はついこのあいだまでは、メキシコのモーテルでからからに

 なって死んでたよ、なんていうのは

 かっこいいなんて思っていたこともありましたけど、

 いまはそういうのはいやですね。いまだったら、

 アクアラングで潜ったままぜんぜん出てこないというのがいいですね」

 

 

ここではない、どこか、に行きたかったのだろうか。

 

合掌。安らかにお休みください。

コメント (2)
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