呉美保監督「そこのみにて光輝く」を見る。
おお。ショットのひとつひとつに力がみなぎっている。
絶望に満ちた映画ではあるけれど、限りなくいとおしくて、美しい。
仕事を辞め、無為な日々を過ごす主人公の達夫(綾野剛)が、
海辺のバラックに住む姉弟と知り合い、交流していくうちに
姉の千夏(池脇千鶴)と惹かれ合う。
だけど彼女の置かれた状況が
ひどく苛酷なものだと判明して…というストーリー。
淡々とした描写のなかに、感情がほとばしる演出に目を見張る。
特に、達夫と千夏が海に入り、抱擁しあうシーンは、
感情のうねりが海に乗り移ったかのようなスペクタクル。
舞台は函館。海があり、山があり、街では信号が点滅し、
路面電車が行き交う。そのノイジーなところも感情を揺り動かす。
ロケーションの勝利なのだろう。
綾野剛のやさぐれた青年もいいが、
池脇千鶴が素晴らしい。汚れ役と言ってもいいほどだけど、
それでもどこか毅然とした美しさがある。
女優冥利に尽きる役なのでは、と。
原作は佐藤泰志の唯一の長編。若くして自死したこの作家、
著作が人気を呼んでいるみたいで、まさにブーム。
人間を冷徹に見つめ、それでも最後の最後は優しいというか、
救済の手を伸べるような作風が映画の作り手たちの
琴線に触れるのだろうか。
熊切和嘉監督の「海炭市叙景」が同じ佐藤泰志原作だったけど、
本作はそれに負けず劣らずの傑作だと思う。
監督は神様(宮崎あおい)と大竹しのぶが
母娘を演じた佳作「オカンの嫁入り」を撮った呉美保。
本作で化けたというか、ブレイクしたというか。