Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

永遠の35歳がジジイに

2009年04月13日 | 読んでいろいろ思うところが
椎名誠『大きな約束』(集英社)を読む。
息子との交流を書いた『岳物語』から25年。
「風太」という3歳の孫がいる「じいじい」の眼から書かれた、
家族との触れあいや、日々の生活を綴る私小説だ。
それにしても、椎名誠が「じいじい」になるとは。
確かにもう64歳なのだから、孫がいてもおかしくない。
椎名誠は、僕の中で永遠に35歳なのだが。



近年の椎名誠は、
『春画』(2001年)『かえっていく場所』(2003年)といった、
成長して大人になっていく子供たちと、
次第に老いていく自分と妻を見つめる私小説を、
ゆっくりとしたペースで発表している。
この『大きな約束』はその続編でもある。

かつて『岳物語』では、
息子とプロレスをしまくる日々を書いていたが、
この新刊では、アメリカに住む息子と孫にときたま電話で話すだけで、
あとはひたすら旅と原稿書きの日々を綴るだけだ。
淡々とした描写が続くが、ときおり、

「とくに風が吹いているような日は、
 干した瞬間から洗濯物がずんずん笑いながら
 その内側から水分を大気に解きはなっているのがわかるようで、
 ああ洗濯物たちがいま我が家の屋上でみんなして喜んでいるのだ、
 ということに感動するのだった」

という、いかにもこの人らしい文章にぶつかると、
思わず嬉しくなってくる。

相変わらずせわしなく生きている自分を、
どこか醒めた視点で見つめているところもあり、
椎名誠は客観性のすぐれた作家だなと、あらためて思う。

老いて、枯れていく自分と、
伸びやかな生命力を主張する孫とのコントラストも素敵、だ。
続編は5月に出るという。楽しみ。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする