Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

到達できた地点から見たものは

2008年11月19日 | 読んでいろいろ思うところが
小林美希『ルポ正社員の若者たち』を読む。
いまや狭き門となった「正社員への道」。
派遣、アルバイト、フリーターなどが増え、
いまや20代の半数が非正規雇用と言われる時代になっている。
そんな状況で、いわゆる「憧れの」正規雇用者、つまり正社員になった
若者たちの現状を丹念な取材で描き出す。
現実と理想。夢と絶望が入り混じった出色のルポルタージュだ。



ここに描き出されるのは、
過酷なノルマを課せられ、
労働力に到底見合わない給与にも関わらず、
希望ややりがいを見出し、懸命に働く若者の姿だ。
家電量販店、SE、介護施設、就職支援会社などで、
彼らが努力と工夫を重ねて成果を上げていく描写は、ある意味、
巷にあふれているビジネス系のノウハウ本や自己啓発本より参考になる。

しかし、規制緩和や親会社の不祥事といった、
本人たちのあずかり知らぬ理由により、
また、既得権益に執着する年長世代の保守的な態度により、
彼らの労働条件は厳しく、辛いものになっていく。
福利厚生や社保が完備され、生活が保障される程度では、
あまりに割が合わない正社員の実態が示される。

著者の小林美希さんも、まさに氷河期世代。
同世代ならではのシンパシーが相まって、
ただのルポを超えた、読み物としてのスリリングさと
読後の快感をもたらしてくれる。
丹念な取材とぶれない視点があってこそ、だ。

雨後のタケノコのように量産されている
若者の雇用問題についての書籍や言論だが、
これまでのような、アナリストや評論家、精神科医や社会学者がいくら頑張っても
到達できない地点にあるのがこの本だと思う。

コメント
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