旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

オレフの塔の物語(エストニアの首都タリン)

2007-02-17 14:06:32 | 

 

 タリンの街はおとぎの国のように美しかった。東欧三国の旅でプラハとともに訪ねたチェスキークルムロフの街に雰囲気が似ていた。実は、おとぎの国にはまだ行ったことがないのだが・・・。
 美しいものの陰には必ず悲しい物語が隠されているは世の常であるが、この街も例外ではなかった。前回予告した「オレフの塔にまつわる悲しい物語」を、市内を案内するバスガイドはかなりの時間をかけて話した。

 「・・・この塔はタリンの街で一番高く134メートルもあります。この塔にまつわる話は、次のように言い伝えられています。
 教会に美しい塔を建てたいと願う人が建築者を探すがなかなか見つからない。あるとき、一人の巨人が現れ請負を申し出るが法外に高い工賃に依頼主は躊躇する。ところがこの巨人、『塔の完成までに私が誰か名前を当てたら、工賃は一ペニーでよい』という。ほくそえんだ依頼主は早速契約して塔を建てさせ、彼が何者であるかを探す。
 なかなかその本体を見破ることができなかったが、完成を間近に控えようやく彼の住居を突き止め、中の様子を探ると、子供を寝かしつけている夫人が『ぼうや、おやすみ、もうすぐオレフがたくさんのお金を持って帰ってくるよ』と、坊やをあやしているのが聞こえた。これを聞いた依頼主は現場に駆けつけ、塔の先端に最後の飾り付けを施している巨人に『おい、オレフ、塔が曲がっているぞ』と話しかける。
 これを聞いた巨人--オレフは驚き、そのあまり塔から落ちて死亡、石と化してしまった。街の人々は彼の死を悼み、その業績を称えて、教会にその名を冠して後世に語り継いだ、と言われます。」

  私は、ヴィルホテルの12階の部屋から、オレフの塔を横切って沈む白夜の落日を眺めながら、この悲しい物語を思い浮かべた。
 なにか聞いたことのある話だな、と思っていると、プッチーニの「トゥランドット」だ。「トゥランドット」は夜明けまでという短期決戦だが、命を賭けた名前のあてっこというつまらない賭けに、死をもって抗議するリュウの愛の行動は、これまた悲しく切ない物語だ。
 悲しい物語ほど美しい・・・それは洋の東西を問わない。
                           


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