「はるかな国」のついでに、コスタリカに触れておく。
コスタリカという国は北米と南米をつなぐ細い帯の、その最もくびれたところに在る小国。しかしこれほど魅力のある国はない。世界にほとんど例のない非武装中立の国、国土の四分の一を自然保護区として乱開発から守るエコーツーリズムのメッカ、ついでに言えば美人の産地で、ミスユニバースなど美人コンテストの高入賞率を誇っている国である。
スイスが中立で有名であるがこれは武装中立。コスタリカは軍艦や戦車はもとより重機関銃までも放棄した。憲法には議会の三分の二の同意で大統領は軍備を持つことが出来るとしているが、「当面戦争をする気はない」と全て放棄したのだ。
当然軍事費はゼロであるから、予算の30%を教育費に充てている。国民の識字率は93%、コンピューターの普及率は高く、「女の子の誰を採用してもコンピューターが使える」とジェトロの駐在員が話していた。
首都サンホセの中央に立派なオペラハウスが立っている。聞けば、今から100年以上前1897年に建てられたものという。スペインから16世紀中葉この地に移住してきた人たちは苦難を乗り越えて1848年に独立、バナナとコーヒーのプランテーションで富を蓄積、その最初の儲けでこのオペラハウスを建てたのである。因みに日本がオペラハウスを持ったのは、ちょうどその100年後、1997年の第二国立劇場の開場を待ってのことである。
サンホセには四泊したが、私は日に一度はこのオペラハウスの前に立ち、既に100年前、国の最初の儲けを誇り高き文化施設に投じた人々の姿を、胸の震える思いで想起したのであった。
「はるかな国」という思いは、単に距離のことだけではない。非武装の選択も、自然保護の精神も、全てはそこに住む国民の文化水準に依拠しているのであろう。世界に誇る平和憲法を持ちながら戦争の方向を探ろうとしている日本を、どう位置付けたらよいのだろうか?